日本は言わずと知れた災害大国であり、これまでに何度も歴史的な大災害を経験している。また、世界的にも気候変動が叫ばれている現状もあってSDGsやESGといった視点からも被災時の対策は今後解決するべき重要な課題である。そうした中、10月6日に複数のスタートアップ企業がオンライン上で防災テクノロジーの未来について語るイベント「防災テックスタートアップカンファレンス2021」が開催された。

本稿では、同イベントにSPECIAL SPEAKERとして登壇したヤフーの天気・災害サービス 企画・ディレクションを担当する諸岡達也氏の講演を紹介する。発表タイトルは「ひとりひとりの防災行動につなげるために~ヤフーの最近の取り組みから~」。

  • ヤフー 天気・災害サービス 企画・ディレクション 諸岡達也氏

ユーザーの位置に基づいた情報を提供する「災害マップ」

ヤフーはYahoo!JapanのWebサイト上での天気情報に加えて、「Yahoo!天気」や「Yahoo!防災速報」など、複数の天気・災害サービスを提供している。「Yahoo!防災速報」アプリは緊急地震速報や豪雨予測などをプッシュ通知で知らせるほか、自宅や現在地の被災状況を迅速に提供する機能を持つ。

過去の経験から、災害発生時に被災者が情報を「自分ごと化」できずに避難行動につながらない点が課題とされている。防災情報として提供される情報の範囲が広いため、情報を自分に関係があるものとしてとらえられず、逃げ遅れるケースが多発しているとのことだ。

また、別の課題としては、災害状況がわかるまでに時間がかかる点が挙げられる。特に夜間の災害発生時には状況確認に時間を要する上、報道記者による広範囲の取材には人手も必要である。

これらの課題を解決するため、ヤフーは日頃から同社のサービスを利用するユーザーからの情報を収集して活用する方法を考案したのだという。そこには、市町村単位よりも狭い範囲でユーザー情報を活用することで臨場感のある情報を提供し、被災の可能性がある生活者に対して早めの備えを促す目的がある。

  • ユーザーの位置に基づいた情報によって、粒度をより細かくして自分ごと化できる情報が提供できるのだという

こうした背景を受けて、ヤフーは「Yahoo!防災速報」のアプリに「災害マップ」機能を実装し、2020年3月にリリースした。同機能は、災害警戒時にユーザーが周囲の状況を投稿できるものだ。位置情報の提供を許可したユーザーが自身の周囲のエリアに限定して投稿できる機能であるため、信頼性の高い情報が収集できるのだという。同年9月には、支援団体や報道機関などの連携パートナーによる投稿を開始している。

  • 災害マップの画面キャプチャ(スライド右側の青色のヘッダの画像2枚)

災害情報提供のベースラインとなる「防災タイムライン」

同社は8月30日に、Yahoo!防災速報アプリの機能として「防災タイムライン」をリリースした。同氏はこの機能について「当社が目指す、平時から災害警戒時、災害発生時、復旧・復興時にわたってワンストップで情報提供する世界を実現するためのベースとなる機能である」と紹介した。

  • 防災タイムラインのリリースイメージ

初回リリース時の機能として、水害の発生に備えて、平時から災害警戒時まで対応する機能が提供されている。水害は他の災害と比較して発生頻度が高いことから、先行して提供を開始したとのことだ。将来的には水害以外の災害や、より幅広いフェーズに対応したサービスの提供が予定されている。

同機能を使用して、平時にあらかじめ自身の防災タイムラインを作成しておくことで、災害警戒時にプッシュ通知により防災行動が提示される。自宅の位置や世帯構成など自身が登録した情報に応じて、警戒レベルごとに取るべき避難行動が通知される仕組みだ。ユーザー自身が情報を登録することで、災害を自分ごと化でき、迅速な避難行動を促す狙いがあるという。

  • 防災タイムライン機能にユーザー情報を登録するイメージ

同氏は防災タイムラインの提供によって目指す世界像について「在住の地域に応じたローカルな情報のみならず、家族構成や連絡先などのユーザー情報と組み合わせることで、個人や家族ごとに応じたパーソナルな支援の実現を目指す」と述べた。