神戸大学は9月30日、2021年7月19日から8月6日に、兵庫県健康財団から提供を受けた1000人の血清中における抗新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)抗体の有無を解析したところ、第2波が終わりつつあった2020年10月と比較して、新型コロナの感染歴があると考えられる人の割合が5倍に上昇していることが明らかになったと発表した。

同成果は、神戸大大学院 医学研究科附属感染症センター 臨床ウイルス学分野の森康子教授らの研究チームによるもの。詳細は、医学、臨床診療、健康科学を扱う査読前のプレプリント用オンラインアーカイブ「medRxiv」に掲載された。

研究チームは今回、2021年8月時点での、兵庫県内における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する抗体保有率の大規模な調査として、2021年7月19日から8月6日にかけて、兵庫県健康財団(神戸市兵庫区)において健康診断を実施した1000人から提供を受けた血清の解析を行い、新型コロナに対する抗体量の測定を行った。

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    検体の背景 (出所:神戸大Webサイト)

検体情報の男女構成は、男性が587人、女性が413人。平均年齢は48歳(19~83歳)で、男性の平均年齢は51歳(20~83歳)、女性は44歳(19~78歳)で、検体提供者の居住情報は把握されていないが、大多数の人が阪神間に居住していると推測されているほか、試料のワクチン接種歴や新型コロナ罹患歴は不明という条件で調査を実施。

具体的には、新型コロナウイルス粒子内部に存在し、感染細胞において大量に発現される「ヌクレオカプシド(N)タンパク質」に対する抗体(抗N抗体。ワクチン接種では獲得されず、新型コロナの感染者だけが保持するとされる)の有無の解析を実施。その結果、1000人中21人(2.1%)が陽性であることが判明。特に、30歳代(3.4%)および40歳代(4.1%)の陽性率が高く認められたとするほか、男性の陽性率が2.7%、女性の陽性率が1.2%であることが示されたとする。

また、ワクチンの接種率を反映していると考えられるスパイク(S)タンパク質に対する抗体の有無を確認したところ、38.7%が陽性であったとするほか、年代別の抗体の保持割合は、60歳以上のグループ(74.4%)において高く認められたという。逆に、29歳以下(18.9%)、30歳代(31.3%)、40歳代(27.6%)、50歳代(33.9%)では比較的低いままであることも判明したという。

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    年齢ごとの抗N抗体および抗S抗体の保有率 (出所:神戸大Webサイト)

研究チームでは、血清中の抗体価測定は、集団内における病原体の広がりを把握するための信頼できる方法と考えられ、特に新型コロナ感染者の40%以上は無症候(不顕性感染)であると考えられていることから、PCR検査や抗原検査だけでは、実際のウイルスの広がりを見誤る可能性があるとしている。

これらの結果を踏まえ、今回の解析が行われた時点でのPCR検査に基づいた新型コロナ感染率は、兵庫県で0.85%、全国で0.80%に対し、実際にはその2.5倍の人が感染していたと推測されると研究チームでは説明しており、これには不顕性感染者や検出されていない軽症者が示されているとする。

研究チームでは、第2波が終息傾向にあった2020年10月にも同じ兵庫県健康財団において健康診断を行った1000人に対する抗N抗体の保有割合の調査などを行っており、その際は0.4%であったとのことで、今回の2.1%はその5倍以上に上昇していることを示すものとなるという。

また、兵庫県における2021年8月6日時点のワクチン接種率は、1回目が42.10%で、2回目が32.85%と公表されている。今回測定されたSタンパク質に対する抗体保有率(38.7%)は、このワクチン接種率を概ね反映していると考えられるという。

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    抗S抗体の定量解析。(A)抗S抗体保持者の血清が階段希釈され、Sタンパク質との反応性がELISA法によって測定された。代表的なもの3例が示されている。(B)(A)の結果から算出された曲線下面積(AUC)を、バイオリンプロットとして表示されたグラフ。横線は四分位数が示されている。白い矢頭は非感染・未ワクチン接種者由来の血清が、黒い矢頭は感染者由来の血清が測定された結果だ (出所:神戸大Webサイト)

特に、60歳以上のグループにおいて認められた、高い抗S抗体の保有率は、高齢者に対して行われたワクチンの優先接種の結果であると推測されるとしているほか、抗N抗体の保有率に基づいて算出された感染率は、高齢者において比較的低くなっていたことから、ワクチンの優先接種が、高齢者における新型コロナの広がりをある程度抑制していることが示されているとしている。

なお、新型コロナは現在も変異株が次々と発生している一方で、全世代へのワクチン接種が近いうちに完了することが期待されているほか、さらなる追加接種も検討されていることから、研究チームでは、新型コロナと社会との関係性は、依然流動的といえ、実際のウイルスの広がりを、今後も注意深く解析する必要があると考えられるとしている。