慶應義塾大学(慶大)とカイゲンファーマは9月27日、海藻に含まれる食物繊維「アルギン酸ナトリウム」が腸内細菌を介してメタボリックシンドロームを抑制することを明らかにしたと発表した。

同成果は、慶大 薬学部薬学科の江島竜太大学院生、同・薬学部の秋山雅博特任講師、同・金倫基教授、慶大 先端生命科学研究所の福田真嗣特任教授、カイゲンファーマの佐藤弘規氏らの共同研究チームによるもの。詳細は、栄養学を扱うスイスのオープンアクセスジャーナル「Nutrients」に掲載された。

アルギン酸ナトリウムは、コンブやワカメ、ヒジキ、モズクなどの褐藻類に含まれ、ヒトの消化酵素では分解できない難消化性多糖類として知られているほか、増粘剤やゲル化剤などといった食品の品質改良材や水溶性食物繊維としても用いられていることなども知られている。

また肥満モデル動物を用いた試験においては、アルギン酸ナトリウムが体重増加を抑える、コレステロールを減少させるなど、メタボリックシンドロームに対する効果も報告されており、アルギン酸ナトリウムが食事由来の脂質を物理的に吸着し、小腸からの脂肪酸やコレステロールの吸収を抑えると考えられているが、メタボリックシンドロームを抑制する詳細なメカニズムはよくわかっていなかったという。

そこで今回の研究では、一部の腸内細菌はアルギン酸ナトリウムを栄養源として利用できることが知られていることを受け、アルギン酸ナトリウムがそうした腸内細菌を介してメタボリックシンドロームの抑制に働いているとする仮説を立てて進められたという。

具体的には、抗菌剤で腸内細菌叢を撹乱させたマウスを使用し、オミックス解析を実施。その結果、腸内細菌がアルギン酸ナトリウムによるメタボリックシンドローム抑制効果に必須であることが判明したほか、高脂肪食を与えられたマウスにアルギン酸ナトリウムを摂取させたところ、Bacteroides属菌が増加することも判明したという。

また、食事によるメタボリックシンドロームの発症に腸管の炎症性マクロファージが関与していることが知られていることから、アルギン酸ナトリウム摂取後の腸管内マクロファージの量的・質的変化の観察も実施。その結果、高脂肪食負荷マウスにアルギン酸ナトリウムを与えると、大腸内の炎症性マクロファージの割合が低下し、逆に抗炎症性マクロファージの割合が上昇することが確認されたとする。このアルギン酸ナトリウムによる炎症性マクロファージの割合低下は、Bacteroides属菌を含む腸内細菌を除去する抗菌剤投与により見られなくなったという。

さらに、腸内メタボローム解析により、アルギン酸ナトリウムで増加したBacteroides属菌と正の相関を示す代謝物が同定され、その中にはニコチン酸、パントテン酸、リボフラビン、ピリドキサールといったビタミンB群やアミノ酸誘導体、核酸などが含まれていることも確認したとしている。

研究チームでは、これまでアルギン酸ナトリウムのメタボリックシンドロームへの効果については、食物中の脂質を吸着し、体内へ吸収されにくくするなどの物理的作用が考えられていたが、今回の成果では、腸内細菌叢の組成や代謝物を変化させることにより腸管内の炎症を抑え、メタボリックシンドロームを抑制することが示されたという。そのため研究チームでは今後、「腸内環境を健全に保つことでメタボリックシンドロームを予防し得る」という概念が広く浸透していくとともに、メタボリックシンドロームの予防・改善を目的として腸内環境を変化させる食品・医薬品の開発が期待されるとしている。

  • 腸内細菌叢

    今回の研究の概念図 (出所:慶大プレスリリースPDF)