人工衛星が撮影した地震前後の地表画像と被災都市にある建物のデジタルデータを解析し、地震による建物被害を短時間で高精度に把握する人工知能(AI)を開発した、と山梨大学の研究グループが発表した。2016年に起きた熊本地震の被害データを使った実証実験では、90%以上の精度が確認できたという。地震だけでなく、洪水や土砂災害などさまざまな自然災害への応用が可能で、人命救助や速やかな復興への活用が期待される。
自然災害が起きた場合、適切な人命救助や復興活動を行うために、まず正確な被害状況を把握することが極めて重要になる。既に衛星による被害地域の撮影画像も活用されている。しかし、宇宙空間からの撮影であることから解像度に限界があり、建物被害などの状況を正確に把握できるレベルに達していなかった。
山梨大学大学院総合研究部の宮本崇准教授と修士課程の山本裕大さんの研究グループは、合成開口レーダー(SAR)を搭載する地球観測衛星が日本の各地の地表を周期的に撮影していることに着目。AIが大地震の前と後の撮影画像を詳細に比較することにより、地震による建物形状の変化を、これまでの画像処理技術より高い精度で検知する手法を考案した。
現在、国土交通省が全国各地の都市データをデジタル化し、オープンデータとして公開する「3D都市モデル」の整備事業(プラトー)が進んでいる。市街地の実態を可視化し、広く公開することで幅広い活用が期待されている。
宮本准教授らは、このように整備が進む市街地のデジタルデータから地震被害を受けた建物の建築材料や古さに関する情報を引き出し、衛星画像の処理結果と組み合わせる手法も考案。AIの深層学習で衛星画像データと市街地建物データという2つのビッグデータを解析することにより、建物被害を把握する技術の開発にこぎつけた。
研究グループは、2016年4月に起きた熊本地震の後に行われた現地調査結果の一部を選択し、開発したAIによる被害検知結果と照合した。照合対象は倒壊310棟、非倒壊2030棟のデータセットだった。その結果、AIは92%という高い精度で、しかも短時間で被害を検知できることを確認したという。
地震被害の多くは建物の倒壊による被害で、人的被害も建物被害に起因するケースが大半だ。宮本准教授らは、このAIを活用すれば被害状況を地震発生の数時間以内に把握できるとしている。また、これまでは必要だった多くの人手と時間を大幅に削減し、地域ごとの被害状況を確実に把握することにより、被災地の人命救助や災害復興の迅速化につながると期待している。
この研究は科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業ACT-Iなどの支援を受けて行われ、研究成果は米電気電子学会誌早期アクセス版に掲載された。
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