はじめに

市場の専門家は、世界の産業オートメーション市場、特にロボティクスは年平均成長率(CAGR)約30%で成長すると予測しています。

コボット(Cobot、Collaborative Robots:コラボレーティブロボット、協働ロボットとも言う)と自律移動ロボット(AMR:Autonomous Mobile Robots)は、オートメーション分野における主要技術であり、劇的な変化を遂げつつあります。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の大流行により、工業生産においてロボットが果たす役割は大きく変わりました。これにはいくつかの理由が考えられます。まず、外出禁止令がもたらした電子商取引の急成長が製造における自動化の役割に大きな構造改革をもたらしたこと。次に、業界のリーダーたちは、製造フロアにおける社会的距離確保のためのガイドラインを遵守するには、ロボットによる解決策が重要であることを確信しました。最後に、クラウド型ロボットや消毒ロボットなどの革新的な技術は、ロボティクスの分野では比較的新しいものですが、パンデミックのために急速な普及を見せています。総合的に判断して、新型コロナウイルス感染症は、柔軟性を受け入れ技術革新に対応するように、産業オートメーション市場を根本的に変えたのです。

「産業オートメーション」とは、より効率的で安全かつ費用対効果の高いファクトリーソリューションを提供するための、相互に接続された機器のシステムを表す包括的な用語です。本稿では、協働ロボットと自律移動ロボットの2種類の機器について説明します。コボットは一般的な産業用ロボットと同じ系統ですが、より「知能が高い」ロボットです。コボットには、環境意識や状況認識を高めるためのセンサーが搭載されています。例えば、大半のコボットは、人が機器に近づくと人とロボット間の距離に比例してロボットの動作速度が遅くなる、ゾーンベースシステムを採用しています。ユーザーが機器に近づくと、ロボットは安全な動作速度に減速します。現在、世界のコボット市場は44%という驚異的な年平均成長率を示しており、中でもヨーロッパが最大のシェアを占めています。しかし、専門家は電子商取引の急速な普及により、やがてアジア太平洋地域が市場を席巻すると予測しています。コボットは独特な「アーム」を備え、アームの機能や動作範囲を変える「プラグ&プレイ」型エンドエフェクタを使用できます。他方、移動ロボットは年平均成長率が16%で、アジア太平洋地域が最大のセグメントを占めています。

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    図1:ロボットタイプ別の世界市場の概要と実態

自律移動ロボットは、パレットの「牽引」から在庫管理まで幅広い用途に使用されています。最も大きなロボット市場の変化は、ハードウェアベースの販売からサービスベースの産業への転換です。オートメーション企業はRaaS(Robots as a Service:サービスとしてのロボット)と称して、消費者にロボットを一定期間リースすることを認めています。RaaSのユーザーには拘束事項がありません。週単位、月単位、年単位でマシンをレンタルできます。保守、アップグレード、インフラの変更などは、リース契約に基づきメーカーが実施します。RaaSは、新しい施設にロボットを導入する際に必要な高額な先行投資を削減し、ROI(Return On Investment:投資収益率)時間を短縮します。RaaSは、中小企業が生産ライン用のロボットを購入する際の高い経済的障壁を取り除くために導入されました。RaaSは近年急速に普及しています。

本稿では、新型コロナウイルス感染症によって産業オートメーション市場ではロボットに関して、どのような構造改革が行われたかを紹介します。具体的には、(1) クラウド型ロボット、(2) 電子商取引拡大の影響、(3) ロボットによる社会的距離の確保、(4) 消毒ロボット、の4項目について説明します。

クラウド型ロボットへの流れ

ロボット分野におけるクラウドコンピューティングの登場は、決して驚くことではありません。2010年以降、数十社の大手ロボット企業が独自のクラウド型システムを開発してきました。クラウドコンピューティング、クラウドストレージ、その他のインターネット技術が、移動ロボット市場にも浸透してきたのです。クラウド型ロボティクス向けの技術と市場の需要が存在します。

例えば、SLAM(Simultaneous Localization and Mapping:自己位置推定と環境地図作成の同時実行)と呼ばれる地図作成ソフトは、ロボットの位置を把握しながら未知環境の地図を作成するソフトウェアです。SLAM技術とクラウドインフラ、移動ロボットを結合させた究極のソリューション「クラウド型モバイルロボティクス」が開発されています。クラウドストレージは無限ともいえる大きな可能性を秘めており、自律移動ロボットは簡単に作業負荷を切り離してオンボード要件を最小化できるため、バッテリ駆動ユニットの効率を高め消費電力を最適化することができます。自律移動ロボットは今後もロボット市場の最前線で活躍し続けるでしょう。移動ロボットは、大半の製造アプリケーションに適合可能な、インフラ不要の倉庫ソリューションです。最近では、これらのロボットを導入した企業は、工場フロアで人と人との接触がなくなるため、社会的距離の確保を求めるガイドラインに無理なく従うことができます。また、製造メーカーは信頼できる労働力が不足すると、自律移動ロボットで労働力さえも補ってきました。

刻々と変化する新型コロナウイルス感染症の問題に直面した業界のリーダーたちは、自社にクラウド型システムも採用してきました。リモート配備はこの市場では、かつてなかった新しい試みですが、現在の状況においては大多数の消費者にとって望ましい供給方法と言えます。世界中の製造フロアがパンデミックの影響で一変しましたが、その共通テーマは「現場に訪問者を入れない」ことです。パンデミック以前は、関係者双方にとって設置はさまざまな物流上の手間がかかる作業でした。自律移動ロボットはインフラが不要なので、ユーザーはSkypeを使って、担当者の指導を受けながらロボットを開梱できるようになりました。必要なインストールファイルや推奨設定はすべてクラウド経由でアクセスでき、これまで以上に導入作業が簡単になりました。これはパンデミックの影響で、この市場にも柔軟性が求められていることを示す一例です。最近では、効率を最大化するために、消費者が製造フロアの柔軟性を要求しています。これに対応するために、クラウド型システムでは再構成が簡単になりました。ユーザーは一日中、異なるアプリケーションに合わせてロボットの再編成や再構築を行うことができます。リモート配備に否定的な人たちは、当初は懐疑的でしたが、ユーザーはクラウド型システムの柔軟性を気に入っているようです。

最近「スマートファクトリ」の重要性を強調しているロボットメーカーもあります。特に、クラウドベースの保守&監視も注目されてきました。これらのアプリケーションは、機器と同梱して販売される場合も多く、各ロボットの機械的な状態やプロセス健全性をリアルタイムで常時監視します。クラウドベースのヘルスチェックは、ダウンタイムを短縮し、工場の効率を向上させます。ユーザーはロボットの健康状態をリアルタイムで確認し、問題が発生する前に正確に診断し修復することができます。これらはすべて、1つのダッシュボード上で簡単に設定でき、スマートフォンを使って遠隔地からアクセスすることも可能です。さらに、クラウドベース監視ソフトウェアがロボットの製造履歴をすべてマッピングします。ついでこのソフトウェアは、スマートフォンアプリ、ブラウザ、またはデスクトップアプリを介して、ユーザーに製造エラーや最適化のヒントを提供します。

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    図2:高機能クラウドサーバーのブロック図(緑色部分がオン・セミコンダクター製部品)

全体的に見て、自動化が最新工場の姿を変えつつあります。新型コロナウイルス感染症で、この流れが加速しました。ユーザーもメーカーも、低コストで高効率を達成するスマートファクトリへの突然の動きを目の当たりにしています。さらに、クラウド型システムを使った遠隔地からのアクセスや設定により、社会的距離の確保を求める最も厳しいガイドラインの遵守にさえも効力を発揮できます。オン・セミコンダクターは、このような新しい技術や工程が業界全体に定着する中で、オートメーション企業がロボティクスやクラウドコンピューティングの最新技術にアクセスできるようにしています。オン・セミコンダクターのクラウドコンピューティング用FETは、技術リーダーに新型コロナウイルス感染症がもたらす課題に取り組むための装備を提供し、現在の市場トレンドを後押しします。

新型コロナで電子商取引の売り上げが急増

生活に電子商取引が欠かせないものになってきた今、ビジネスにとって電子商取引はどのような意味を持つのでしょうか。2019年には、全世界の売上高に占める電子商取引の割合は約16%でした。大手製造メーカーは何十年も前から、伸び続ける需要に対応するために自動化スキームにロボットを組み入れてきました。しかし、新型コロナウイルス感染症によるオンライン売り上げの増加を想定していた企業は皆無でした。IAM Roboticsによると、「約1万軒の小売店舗のオンライン売上データによると、2020年5月26日から6月1日までの週の電子商取引売上は、パンデミック前の基準である2月24日から3月1日までの週と比較して、約40%増加した」とのことです。専門家は、この成長曲線はやがて平坦になると予測していますが、消費者がパンデミック前の購買パターンに戻るとは考えていません。製造フロアでは、かつてないほどの需要がある一方で、社会的距離の確保も求められています。これらの課題を解決するために、企業は製造インフラにロボットを導入しています。幸いなことに、本来ロボットは生物学的ウイルス感染とは無縁なため、社会的距離を確保する必要はありません。

この10年間、ロボットサプライヤは中小企業をターゲットにしてきました。技術の進歩に伴い、中小企業はロボットを利用した自動化がもたらす高い柔軟性と効率にますます依存するようになっています。残念ながら、産業用ロボットは高額な投資や多大なインフラ構築を必要とし、安全面でも大きな懸念があります。他方、コボットや自律移動ロボットには、従来の自動化技術で課されていた制約がほとんどなく、人間と一緒に働くことを前提としています。また、RaaSを利用することで初期投資も少なくて済みます。加えて、インフラを変更することなく、どのような空間にも組み込むことができるのです。大部分の中小企業は、パンデミックの中で生き延びるのに苦労しています。しかし、自動化を導入している企業は、このような状況下でも自動化を信頼できる手段として活用しています。生産ラインにロボットを導入した企業では、稼働時間が飛躍的に伸び、人の出入りが減り、労務を社会的に切り離すことができるようになりました。そのうえ、ロボットには人間労働者を対象とするような職務規定がないため、週末勤務や夜勤も可能なので、総合的な生産性が向上します。ロボットを製造工程に組み込んだ企業では、製造フロアで働く作業員の人数が減り、生産性が向上したため運転コストが低下しました。

電子商取引による売り上げの増加は、企業の大小にかかわらず、大多数の企業に対応を迫りました。短期的には、企業は生き残りのために計画を見直す必要がありました。企業は、サプライチェーンの見直し、製造工程の調整、リモートワーク環境への移行などの短期的な解決策を実施しました。しかし、パンデミック後に市場のリーダーとなるのは、市場の変化を先取した企業です。新型コロナウイルス感染症の影響で、工場にロボットを導入する企業が増えています。ロボットは工場に定着するでしょう。Automaticaが2020年の初めに実施した調査では、産業界の意思決定者の80%が、ロボティクスの最も重要な3つの利点を次のように述べています。

  1. 従業員が危険な作業から解放される。
  2. 製造をロボットを使った新しい作業に素早く転換できる。
  3. 製造コストを削減できる。

また、同じ調査から、企業は職場における自動化を次のとおり受け入れています。

  • ドイツの中小企業では、意思決定者の84%がロボットによる自動化が進むことを予測している。
  • 意思決定者の77%は移動ロボットを使って、迅速に製造の転換を行っている。
  • 中小企業の従業員の76%がロボティクスのトレーニングを希望している。

以上の結果から、業界は明らかに自動生産への移行に舵を切っており、オン・セミコンダクターもこの変化に対応しています。オン・セミコンダクターは、どの産業用ドライブアプリケーションにも適応する、インテリジェントパワーモジュール(IPM)の完全なポートフォリオを提供しています。オン・セミコンダクターのIPMポートフォリオは、50Wから7.5kWまでの幅広い電力レベルをカバーします。これはさまざまなパッケージサイズと技術で実現されています。オン・セミコンダクターは最近、IPMに加えてトランスファーモールド型パワーインテグレーテッドモジュール(TM-PIM)を発表しました。TM-PIMは、業界のゲル充填モジュールと比較して、高効率、3倍のパワーサイクル、10倍の温度サイクルを達成しており、結果として高耐久性、市場をリードする高い信頼性をもたらします。このTM-PIMは、定格電圧1200V、定格電流範囲25A~50Aで、コンバータインバータブレーキ(CIB)および熱強化オプションを利用できます。

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    図3:インテリジェントパワーモジュール(IPM)を搭載した高機能協働ロボットのモータードライブブロック図(緑色部分がオン・セミコンダクター製部品)

ロボットを活用した社会的距離の確保

協働ロボットや移動ロボットは、新型コロナウイルス感染症対策の中でニッチなソリューションに分類されます。ロボットを使うことで、工場フロアで社会的距離を確保することができます。新型コロナウイルス感染症の流行前、中小企業は生産コストを削減し、より安全な作業環境を形成するためにロボットを導入していました。今では、ロボットの導入には距離という付加価値が付きます。製造部門は、生産ラインにおける作業員の間隔が、必ずしも公衆衛生当局が規定した社会的距離のガイドラインに準拠しているとは限らないことに気づいています。例えば、企業は工程に協働ロボットを組み込むことで、社会的距離確保のガイドラインを遵守しながら、生産ラインを最適化することができます。さらに、これらのロボットは、人工呼吸器、個人防護具(PPE)、医薬品など「需要が多い」商品を迅速に処理するように設定を変更することができます。コボットによって、メーカーは消費者の要求に応えると同時に、従業員に対して安全な労働環境を提供できるのです。

工場の管理者は今日、人が頻繁に触れる物体の表面を消毒するという新たな課題に直面しています。同時に、これまでにないスピードで製品を供給することを求められています。そのため、業界の大手企業は、インフラの扱い方を再考する必要に迫られました。専門家は、ロボットによる容器のピッキングで接触を減らすことができると考えています。自動倉庫(AS/RS:Automated Storage and Retrieval Systems)は、今後10年間で最も急速に成長する自動化戦略の1つとされています。自動倉庫とは、在庫品のバッファ、保管、取り出しを行う在庫管理方式のことです。この在庫管理方式は、省力化を実現するだけでなく、自律移動ロボットと統合すれば高頻度の接触部分をなくすことができます。工場フロアで使用される1個の容器が、1日に15回も持ち上げられることがあります。移動ロボットソリューションは、製造フロアで人が頻繁に触れる部分をなくすための鍵となります。新型コロナウイルス感染症対策のために、必ずしも自動倉庫と自律移動ロボットの統合が進わけではありませんが、公衆衛生面での貢献は常に付加的な利益となります。

オン・セミコンダクターは、何十年にもわたってメーカーが取り組む機器の小型化を手助けし、産業ソリューション向けに多種多様な究極のスイッチング技術を提供してきました。Trench 6世代の中電圧MOSFETは、自律移動ロボットの主要技術となっています。また、オン・セミコンダクターのパワーソリューションは、クラス最高のスイッチング時間、超低電力損失を達成し、各種コンパクトパッケージで提供されています。さらに、選択可能な豊富なICオプションを持つ完全にカスタマイズ可能なソリューションも実現しています。自律移動ロボットは一般に、過電圧、過電流、過剰温度、短絡、ストール、不足電圧などの複数の保護機能を備えた高集積チップを搭載しています。

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    図4:高機能自律移動ロボットのブロック図(緑色部分がオン・セミコンダクター製部品)

消毒ロボット

新型コロナウイルス感染症との戦いにおいて、ロボットが非常に重要な役割を果たしました。上記のとおり、最前線のICU向けに、人工呼吸器の製造を急ぐためにコボットが活躍しています。また、自律移動ロボットが「消毒ロボット」として脚光を浴びています。これらのロボットは、UVライトや除菌スプレーを装備し、どんな場所でも除菌できます。ほとんどの障害物を巧みにかわして、新型コロナウイルス感染症の原因となる空間内のウイルスを5分以内に99.99%除去し、どのようなスペースでも消毒することができます。例えば、米国カリフォルニア州サンディエゴにある病院では、最近、管理チームに新たに2台のロボットが加わりました。このロボットは全部で30ヵ所のスペースを消毒し、手術室を12分で消毒できます(作業員なら90分かかります)。このようなロボットは、2月以降需要が増えています。ロボットメーカーの売り上げは昨年比600%増でした。さらにUVライト業者の売上は700%増加しています。また、米国内の大学では、引き出しを開けたり、オフィスや研究室などの狭い空間を消毒できる自律移動ロボットの開発が進んでいます。このように、自律移動ロボットを使った消毒方法は、パンデミック発生以降の自動化に見られる流れを象徴しています。

まとめ

結局のところ、今回の新型コロナウイルス感染症によって、産業オートメーション市場は、技術革新と柔軟性を重視した市場へと変化しました。ロボットは、新型コロナウイルス感染症パンデミックの中でメーカーが直面するリスク要因を軽減するために、重要な役割を果たしています。自律移動ロボットは、製造フロアで人が頻繁に触れる場所を減らし、研究所、空港、学校などの重要なスペースに消毒サービスを提供しています。さらに、協働ロボットは生産ラインの労働力を増強し、社会的距離を適切に保ちながら、記録的なオンライン販売に対応するために効率の向上を図っています。また、産業用オートメーション技術は、個人防護具や人工呼吸器、主要な医薬品などの重要なサプライチェーンを確実なものにしました。コボットは、新型コロナウイルス感染症迅速検査センターをサポートしたり、検査1回あたりの所要時間を短縮したりすることも可能です。これにより、新型コロナウイルス感染症検査の総所要時間を短縮できます。

ロボットメーカーは、パンデミックがもたらした技術的、経済的、社会的な圧力に適応することで、パンデミック渦中でも生き延びることができました。このような変化をうまく利用する企業こそが、市場のリーダーとして浮上してくるのではないでしょうか。オン・セミコンダクターは、自動化へ向かう流れを押し進め、あらゆるロボティクスアプリケーションのための完全にカスタマイズ可能なパワー、センシング、および高度なソリューションを提供することによって、先駆的な企業を支援します。

著者プロフィール

Jack Snyder
ON Semiconductor
Technical Marketing Engineer
Power Solutions Group