東京理科大学(理科大)は8月11日、電界効果トランジスタ(FET)の仕組みを応用した新手法を開発し、これまで困難だった固体電解質での「電気二重層効果」の定量評価に成功したと発表した。

同成果は、物質・材料研究機構(NIMS)国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(MANA)の土屋敬志主幹研究員、理科大大学院 理学研究科 応用物理学専攻の高栁真大学院生、NIMS 先端材料解析研究拠点の三石和貴副拠点長、NIMS 機能性材料研究拠点の井村将隆主任研究員、同・上田茂典主任研究員、同・小出康夫特命研究員、理科大理学部 第一部応用物理学科の樋口透准教授、MANAの寺部一弥MANA主任研究者らの共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の化学全般を扱う学術誌「Communications Chemistry」に掲載された。

リチウムイオン電池(LIB)のさらなるエネルギー密度の向上を実現するため、電解液ではなく固体電解質を用いるリチウム全固体電池(全固体LIB)の研究開発が世界中で活発に行われているが、電解質/電極界面の高い界面抵抗に由来する出力低下が課題となっている。

この高い界面抵抗の起源については、現在のところ明らかにはなっておらず、さまざまな機構が検討されているが、一因として界面近傍でのリチウムイオン濃度変化に起因する「電気二重層効果」の影響が疑われているが、液体電解質に比べて材料内部で電荷補償が起こりやすい固体電解質では、電気二重層効果の検出や評価はこれまで困難であり、詳細はわかっていなかったという。

そこで研究チームは今回、「電界効果トランジスタ(FET)」の仕組みと化学的に不活性なダイヤモンドの特徴を利用して、固体電解質界面の電気二重層の電荷を、ホール効果を利用して電子キャリア密度や移動度を求める測定方法である「ホール測定」で評価する新手法を開発し、異なる元素を含む2種類のリチウム固体電解質の界面調査を行ったという。

その結果、リチウムと酸素のほかにシリコンとジルコニウムを含むリチウム固体電解質A(Li-Si-Zr-O)では電気二重層効果によってダイヤモンド表面の正孔密度が3桁にも渡って変化することが確認された一方、チタンとランタンを含むリチウム固体電解質B(Li-La-Ti-O)では、変化がまったく観察されなかったという。これは固体電解質Aでは界面で電気二重層効果が生じていることと対照的に、固体電解質Bでは内部で電荷補償が起こっていることを示しているとする。

加えて、界面付近にナノ薄膜を挿入した実験が行われたところ、正孔密度変化の挙動が界面から5nm以内の薄い領域の電解質組成に支配されることが判明。そこで、固体電解質Bで電気二重層効果による正孔密度の変化が起こらない機構を調査した結果、電解質内部でチタンの酸化数変化が起こっていることが確認されたことから、固体電解質Bではチタンの酸化還元反応によって電解質内部での電荷補償が起こっていると考えられるとしている。

なお、研究チームでは今後、さまざまな元素を含む電解質材料に応用して電気二重層の挙動を調査すると同時に、電池における界面抵抗との比較を行い、界面抵抗の低減によって高出力を実現する次世代電池開発に活用する予定としている。

  • 全固体リチウムイオン電池

    (a)全固体LIBの模式図。(b)ダイヤモンド表面の正孔密度のゲート電圧依存性。負のゲート電圧を増すことでリチウムイオン(Li+)がダイヤモンド界面からゲート電極側に移動する。(c)Li+固体電解質Aを用いた場合(左)と、Li+固体電解質Bを用いた場合(右)の比較 (出所:共同プレスリリースPDF)