北海道大学(北大)とよつ葉乳業は8月4日、乳酸菌「YRC3780株」の摂取が、心理的なストレスの原因を与えた際に、ストレス反応の指標ホルモン「コルチゾル」の濃度の上昇からの回復を早める抗ストレス作用を持つことを発見したと発表した。

また乳酸菌YRC3780株の摂取は、主観的な睡眠の質とメンタルヘルスを改善すること、生体のストレス反応を担う視床下部-脳下垂体-副腎皮質系(HPA axis系)の活動指標でもあるコルチゾルの日内変動を変化させ、朝方の分泌量の上昇を緩和することを発見したことも合わせて発表された。

同成果は、北大大学院 教育学研究院の松浦倫子学術研究員、よつ葉乳業 央研究所の元島英雅研究員、同・内田健治研究員、北大大学院 教育学研究院の山仲勇二郎准教授(北大 脳科学研究教育センター兼務)らの共同研究チームによるもの。詳細は、「European Journal of Clinical Nutrition」にオンライン掲載された。

ヒトを含む多くの動物の腸内には、多種多様な細菌が棲み着いており、ヒトの場合は約1000種類ほどで、その合計はなんと約100兆個にも及ぶという。こうした腸内細菌の集まりは「腸内細菌叢(腸内フローラ)」と呼ばれ、近年、ヒトの健康を維持するのに重要な役割を担っていることがわかってきている。

また、身体に備わる心理的・身体的ストレッサー(ストレスの原因)に適応するための防御システムとも関連していることも分かってきたという。

こうした身体のストレス防御システムは、視床下部-下垂体-副腎皮質系(HPA axis系)として知られ、その活動度は副腎皮質ホルモンのコルチゾル濃度から測ることで知ることができる。また、伝統的発酵乳のケフィアには抗ストレス作用があることがこれまでの研究から示されており、そのケフィアから分離された乳酸菌が「YRC3780株」だという。

そのため、YRC3780株にも、抗ストレス作用を有することが期待されているが、その日常的な摂取が、体内時計に制御されるHPA axis系の日内変動、心理的なストレッサーを与えた際のHPA axis系のストレス応答、腸内フローラに与える影響についてはこれまで検証されていなかったという。そこで今回の研究ではその効果を確認すべく、健常成人33名をYRC3780摂取群(16名)とプラセボ摂取群(17名)の2グループにランダムに分け、実験が実施された。

その結果、YRC3780株を摂取したグループでは、プラセボを摂取したグループと比較して、摂取開始から6週目、8週目に測定された唾液中コルチゾル濃度の日内変動において、午前中のコルチゾル濃度の低下が観察されたとするほか、YRC3780株を摂取したグループでは、主観的な睡眠の質およびメンタルヘルスに関する質問紙(AIS:アテネ不眠尺度質問票、GHQ28:GHQ精神健康調査票)の得点が、有意に低下することも観察されたという。

  • ストレス

    唾液中コルチゾルリズムの日内変動の変化。通常、唾液中コルチゾル濃度は朝方起床後に最高値となり、夜間に最低値となる明瞭な日内リズムを示す。日常的な乳酸菌YRC3780株の摂取群では、プラセボ摂取群に比べて、摂取開始から6週目、8週目において朝方のコルチゾル濃度を低下させることが観察された (出所:共同プレスリリースPDF)

また、HPA axis系のストレス反応を評価するTSST試験の結果、TSST試験終了後の唾液中コルチゾル濃度は両群ともにTSST試験実施前に比較して有意に上昇しており、正常なストレス応答が見られたとする一方で、YRC3780を摂取したグループではプラセボ摂取群に比較して、唾液中コルチゾル濃度が低い値で推移し、TSST試験開始から40分後の唾液中コルチゾル濃度が有意に低い値が観察されたとする。

  • ストレス

    TSST試験による唾液中コルチゾルの変化。心理的ストレス負荷後の唾液中コルチゾル濃度は、乳酸菌YRC3780株およびプラセボ摂取群ではストレス負荷前に比べ、唾液中コルチゾル濃度の上昇が認められたという。乳酸菌YRC3780株を摂取した群では、プラセボ群に比較して唾液中コルチゾル濃度が低い値で推移し、心理的ストレス試験開始40分後の唾液中コルチゾル濃度が有意に低い値が認められたとした (出所:共同プレスリリースPDF)

研究チームでは、これらの結果は、日常生活において乳酸菌YRC3780株を摂取することにより、心理的なストレスに対する生理的なストレス応答が改善されることを示唆するものであるとするほか、乳酸菌YRC3780株の摂取が体内時計に制御されるコルチゾルリズムの日内変動を穏やかにし、主観的な睡眠の質とメンタルヘルスを改善する効果と関連する可能性が示唆されたとしており、今回の成果が今後のメンタルヘルスの改善、メンタルヘルスの不調に起因する疾患を予防する食品の開発への応用へと発展していくことが期待されるとしている。