沖縄科学技術大学院大学(OIST)と高知大学の研究チームは、サンゴの培養細胞が褐虫藻を取り込んだ瞬間を観察することに成功したと発表した。
同研究は科学誌「Frontiers in Marine Science」に7月14日付で掲載された。
褐虫藻はサンゴが健全に生きていく上で必須な藻類だとされ、サンゴは褐虫藻を取り込むことで褐虫藻に安全な住処を提供し、褐虫藻は光合成により作った栄養をサンゴに提供するという共生関係を構築している。
しかし、近年では海水の汚染や酸性化、海洋温度の上昇などの環境ストレスによって、褐虫藻がサンゴから抜け出してしまい、サンゴが白化し、死滅するということが報告されるようになってきた。
サンゴ礁は海の表面の0.2%ほどだが、そこに海の生き物の30%が生息し、サンゴが絶滅すれば、それにともない、そこに住む生き物も絶滅することが懸念視されている。そのために、サンゴ礁の保全を進める取り組みが世界各地で進められている。また、その促進に向けて、サンゴと褐虫藻の相互関係を解明することが求められているが、現在まで、サンゴと褐虫藻がどのように共存するのかはよく分かっていないという。
その理由の1つとして、サンゴの細胞を培養するのが難しく、研究室でのサンゴと褐虫藻の共生関係の再現が難しかったことが挙げられる。
研究チームは、この課題を解決するべく2021年4月にサンゴの細胞が培養中に死んでいくのを防ぐ方法を確立し、培養細胞株の樹立に成功しており、今回の研究ではその方法を活用し、培養株のサンゴ細胞の中で、遺伝子発現や行動からサンゴの内胚葉細胞の性格を持つ「IVB5」という培養株に着目し、IVB5サンゴ細胞の培養皿に褐虫藻を加えると、約40%の培養サンゴ細胞が長い指のような突起(仮足)を伸ばして褐虫藻をとりこむ様子を確認することに成功したという。
さらに、取り込まれた後の細胞の様子を2~3日ほど観察したところ、取り込まれた褐虫藻の中でも断片化して壊れてしまったものと、液胞と呼ばれる膜に囲まれた細胞小器官の中に取り込まれたものがあることも分かったという。
論文共著者である関田論子博士はこの現象から「おそらくサンゴの祖先は、褐虫藻を取り込み、壊して、餌として利用したのがはじまりだと考えられる。しかし時間を経て、サンゴは褐虫藻を、光合成して栄養をくれる仲間として扱うように進化したのではないか」とどのようにして両者の共生関係が始まったのかを示唆した。
また、研究チームの高知大学の川村和夫名誉教授は「今後は取り込まれた後に、生きる褐虫藻と死んでしまう褐虫藻の違いがどういうところから生じているのかを解明したい」としている。
なお、研究チームでは、電子顕微鏡を用い、サンゴ細胞がどのように褐虫藻を取り込んでいくのかといった過程の研究を進めることで、褐虫藻とサンゴの細胞の両方が増殖できるような培養系を確立したいとしており、そうした研究から白化がどのように起こるのかの理解につなげていきたいと説明した。