インターステラテクノロジズ(IST)は7月3日、観測ロケット「MOMO7号機」(名称:ねじのロケット)の打ち上げを実施。機体は順調に飛行を続け、約4分後に予定通り高度約100kmの宇宙空間に到達、打ち上げは成功した。MOMOの成功は、3号機以来の2回目。約2年ぶりに宇宙へ戻れたことで、今後の事業化に弾みが付きそうだ。

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    打ち上げを実施した観測ロケット「MOMO7号機」(C)IST

初日に一発成功の意味

MOMO7号機は当初、昨夏に打ち上げる予定だったが、エンジン点火器の不具合のため、2回に渡って延期。その後、同社はMOMOの全面改良を決定、信頼性や運用性を強化した新型機「MOMO v1」を開発してきた。今回の7号機の打ち上げは、このv1仕様の初飛行となるものだ。

参考:ISTのMOMO7号機は新型の「v1」にバージョンアップ、ノズルなどを大幅改良

今回、7号機は7月3日~4日に打ち上げ日を設定していた。最初のウインドウ(3日11:00~12:20)は、上空の氷結層の厚さが基準を満たさなかったため見送り、ターゲットを次のウインドウ(同16:05~17:50)に変更。予定時刻は小刻みに後ろ倒しされていったものの、天候は徐々に回復し、快晴の中、17:45に打ち上げられた。

MOMO7号機のダイジェスト動画

正確な燃焼時間はまだ解析中とのことだが(計画では約2分間)、速報値では、17:49に最高高度に到達、17:55に射点から73km沖合の海上に着水したという。今回は初めて、オンボードカメラの映像の中継が行われたが、丸い地球と黒い宇宙空間をハッキリ確認することができた。テレメトリの取得も正常だったという。

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    MOMO7号機の打ち上げ結果(速報値)。宇宙への到達はこれが2回目だ (C)IST

大きな不具合を出すこともなく、天候による数時間の延期のみで、初日にしっかり打ち上げられたというのは、信頼性の面において、最高の結果だったと言える。v1としての実績はまだ1機だけだが、このあと今夏に続いて打ち上げる予定の6号機もスムーズに打ち上げ、成功することができれば、大きなアピールになるだろう。

同社の堀江貴文ファウンダーは、「1年間打ち上げをせず、新しい機体に集中するのは苦渋の決断だった」と述べる。しかし、「新しい社員がたくさん入り、強い組織を作ることができた。今回、初日から打ち上げられたのは、設計から運用に至るまで、チームとして確固たる体制ができたから」と評価した。

なおv1では、運用性の改善も図られた。稲川貴大代表取締役社長は、「今回、スタッフの集合時間をかなり遅くすることができた。ウインドウを夕方に変更したときも、短時間、少ない手数で準備できた」と効果を実感。「私は現地の指令所で指揮していたが、非常に練度も高く、情報のやりとりもスムーズ。良いチームになった」と述べた。

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    ISTの稲川貴大代表取締役社長(左)と堀江貴文ファウンダー(C)IST

今回の成功により、MOMOの開発フェーズは完了。今後、量産化・事業化を推進していく。堀江氏は「サブオービタル機の打ち上げ回数は、世界的にもあまり多くない」と指摘。「6号機ではペイロードの回収も行うが、MOMOクラスの機体でそこまでやれるロケットは無い。そこそこのマーケットはあるのでは」と期待した。

MOMOの開発が一区切りついたことで、今後、エンジニアは全面的に超小型衛星用ロケット「ZERO」の開発に振り向ける。ZEROを予定通り2023年度に打ち上げるためにも、今回の成功は非常に大きかったと言えるだろう。

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    今後は、MOMOの運用を継続しながら、より大型のZEROの開発を進める(C)IST

記者会見には、7号機のスポンサー各社も出席。それぞれ以下のようにコメントを述べた。

  • サンコーインダストリー・奥山淑英代表取締役社長(ネーミングライツ&機体広告)

「今後、MOMOの量産が始まると、もっとたくさんネジを使ってもらえる。これからもネジでISTを支援していきたい」

  • 花キューピット・吉川登代表取締役社長(バラを搭載)

「我々は花を全国に届けている。花は感動や癒やしを与える。今回の搭載を機に、宇宙と花で何か始められれば」

  • 平和酒造・山本典正代表取締役社長(純米大吟醸「紀土」を燃料に添加)

「エクストリームなミッションを完璧に達成してくれた。日本酒業界はコロナ禍で大打撃を受けているが、明るい飛翔が未来に繋がった」

  • サザコーヒー・鈴木太郎代表取締役社長(「パナマ・ゲイシャコーヒー」を搭載)

「3回失敗したら諦めようかと思っていたが、ついに夢を叶えてくれて嬉しい。世界一高いところまでコーヒーを届けたかった」

  • 高知工科大学・山本真行教授(インフラサウンドセンサーを搭載)

「3号機でも上昇時のデータは取得できたが、今回は落ちてくるまで全て完璧に取ることができた。科学観測としては大きな成功」

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    MOMO7号機のスポンサー各社(C)IST

高度何kmからが宇宙?

ところでMOMO7号機の到達高度であるが、速報値では99kmと伝えられていた。一般的に宇宙空間は「高度100km以上」と言われることが多いため、99kmと聞いて「それは宇宙と言えるのか?」と疑問に思った人もいるだろう。

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    エンジンに点火し、上昇していくMOMO7号機(C)IST

しかし高度100kmのところに何か物理的な境界面があるわけではなく、この100kmという数字には、定義以上の意味はない。実際、大気も重力も99kmと100kmの間には大きな違いはなく、単純に「1km足らないから宇宙ではない」と言えるような話ではない。

ではこの100kmという数字がどこから来たのかというと、これは国際航空連盟(FAI)が決めた定義による。しかし、米空軍は別の定義で50マイル(約80km)以上を宇宙と決めており、民間宇宙旅行の実現を目指す米Virgin Galacticも、同社の宇宙船「VSS Unity」が達成した高度55.45マイル(約89km)をもって「有人宇宙飛行に成功」と発表している。

高度100kmであっても、まだ薄い大気が存在している。小惑星探査機「はやぶさ2」の帰還カプセルは、高度120kmを大気圏への再突入としていた。このように、高度による変化は連続的であり、地球と宇宙との境界は非常にぼんやりしているのだ。

堀江氏は「MOMOはちょうど100kmくらいに到達するよう設計しており、大体狙った場所に到達して、狙った場所に落ちている。機体の動作としてはパーフェクトだった」と述べる。稲川社長も「到達高度や挙動を見ても、基本的には計画の動作を達成できたと思う。約2分間の燃焼はできたと考えている」とした。

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    オンボードカメラからの映像。丸い地球が綺麗に映っている(C)IST

今後、詳細な解析の結果、到達高度が100km以上になる可能性もあるものの、もし99kmのままであったとしても、筆者としては、同社が発表したように「宇宙到達」と言って良いだろうと思う。科学観測のデータもしっかり取得できており、少なくとも、観測ロケットの打ち上げミッションとしては、成功と断言して間違いない。

ただ今回、v1の実フライトデータを初めて取得できたことで、今後、それを設計にフィードバックすることができる。6号機はすでに機体が完成しており、追加でやれることは限られるだろうが、おそらくその次以降には、確実に100kmを超えるように調整してくるのではないだろうか。