自動車の自動運転は、レベル2からレベル3、レベル4へと移行しつつあります。これらの自動車には、先進運転支援システム(ADAS)、コネクティビティやナビゲーションのためのドメインコントロールユニット(DCU)、電子制御ユニット(ECU)、グラフィックス処理ユニット(GPU)、高画質カメラ、センサー、ストレージデバイスなどのコンポーネントが搭載されています。
さらに、パワートレイン、シャーシ、車体および快適機能、ヒューマン・マシン・インタフェースやインフォテインメントを制御する回路も含まれます。車載ネットワーク(IVN:In-vehicle Network)やこれらの機能を接続する関連ケーブルは、自動車の中でシャーシとエンジン本体に次いで、3番目に重い部品であり、コストも3番目にがかかるのです。
2004年当時、BMWのElectronics Engineer and Group ManagerのThomas Konigsederはこのことを考えており、BMW車のソフトウェア・フラッシュ・プログラミングの開発プロセスを加速させるという根本的な問題を解決しようとしていました。Thomasが、既存のCAN(Controller Area Network)インタフェースを使用した場合、BMWの次期モデルに搭載される予定の1GBのソフトウェアのダウンロードが完了するまでに、数時間を要することになります。Thomasは、多くの評価を重ね、半導体パートナー企業と協力して、100Base-TXイーサネット規格を採用し、BMW 7シリーズが2008年にイーサネットインタフェースを備えた最初の自動車となりました。
これ以降、自動車メーカー(OEM)はイーサネットをソフトウェアのダウンロードや駐車中の車載診断装置にのみに使用されていた状態から、移動中の車両内のネットワークとして使用されるまでに、しばらく時間を要しています。その要因は、EMI/EMC(Electromagnetic Interference/Electromagnetic Compatibility:電磁干渉/電磁両立性)、レイテンシ(遅延)、そしてイーサネットが、ECU未使用のポート、携帯電話、Wi-Fi、Bluetooth、診断装置などの外部インタフェースからのハッキングや改ざんに対して脆弱であることでした。
車載イーサネットのデザインとテスト
これらの理由から、車載イーサネットにはコンプライアンスとパフォーマンステストが非常に重要になります。テストには、以下が含まれます。
- トランシーバ、レシーバ、およびリンクコンプライアンステスト
- コンフォーマンステスト、統合テスト、プロトコル認証試験、および性能試験
- すべてのインタフェースを介したデバイスへの接続、ソフトウェアによる攻撃のシミュレーション、回帰テスト、およびファズテストを含む、セキュリティテスト
マルチギガ車載イーサネットのニーズ
今日、自動車用アプリケーションの数は増加の一途をたどっており、IVNに求められる帯域幅やその他の要件をも高まっています。イーサネットの技術と規格は自動車向けに進化し続けているため、イーサネットはこれらの要求を満たすことができます。当初はBMW の高級車向けのソリューションでしたが、今ではほとんどの車種に普及しています。
実際、自動車OEM企業では、帯域幅需要が拡大しているため、車載イーサネットの次のバージョンとなるマルチギガイーサネット(2.5Gbps~10Gbps)の評価をすでに開始していることが話題になっています。
- カメラなどのADASセンサーの数は、自動運転レベル3と4において、約10個から20個以上に増加
- カメラからの未圧縮の生データ(圧縮による画質の劣化や遅延の増加、センサーへのコスト・熱負荷の増加)の必要性
- 各カメラからの解像度が720pから1080pに上がり、さらに4Kへの対応
- フレーム/秒が30から60に増加
- 色深度を8ビットから16ビット、20ビット、さらには24ビット/ピクセルまで増加
4Kの解像度と8ビット以上の色深度では、マルチギガイーサネットが必須になります。下表を参照してください。
欧州におけるセンサー、車載ネットワーク、自動運転
欧州(EU)市場では、自動車業界はEUのGDPの7%以上を占めており、これまで、自動車の研究開発において世界最大の投資を行っています。
自動車の特許出願数でも、欧州が世界をリードしています。2011年以降の出願数の37%がEUからでした(これに対して、米国は34%、日本13%、中国3%。European Automobile Manufacturers Association:欧州自動車工業会)。
自動車市場におけるセンサーやIVN要件を把握するのに優れたプロジェクトとして、3年間で5100万ユーロをかけたEUのプロジェクトPRYSTINEがあります。
このプロジェクトは、EUのHorizon 2020 Research and Innovationプログラムから出資を受け、自動車メーカーであるBMW、Ford、およびMaserati、および半導体企業であるInfineon TechnologiesとNXP Semiconductorsなど60社で構成されています。このプロジェクトでは、レーダーとLiDARセンサーの融合、信号処理の統合、AIを活用して、都市部と農村部の両方の環境での複雑な道路事情で安全な自動運転を実現します。
最終目標は、フェイルセーフシステムからフェイル・オペレーションシステムまで移行し、セイフティコントローラー、センサー、レーダー、ライダー、カメラ、コンピューティングプラットフォームなど、将来の自動車で搭載されるべきすべてのコンポーネントの安全性を向上させることです。
EUでは、交通事故死者の22%が歩行者、8%が自転車に乗っていることに注目しています。PRYSTINEベンダーが開発したソリューションでは、360度のビデオ処理とサラウンドカメラを使用して死角を解消し、交通弱者がドライバーの自然な視界に入る前に確認できるようにします。
さらに、ソリューションは交通事故を減らしドライバーの意識を向上させる交通安全アラートを提供します。交通管理ソリューションは、交通管制官からの情報、フローティングカーのデータ、ナンバープレート認識カメラのデータを取りまとめます。
これらのデータはすべて、高速、広帯域、低遅延ネットワーク上で転送されるため、ここでマルチギガイーサネットなどの規格が重要になります。
まとめ
マーケットリーダシップの世界的権威であるWarren Bennisはかつて、「未来の工場には、従業員は人と犬の2人になる。人はそこにいて犬に餌を与える。犬は、人が装置に触れないように見張るためにそこにいるだろう」と、言っていました。
Warrenは、未来の自動車について似たようなことを言っていたかもしれません。「そこにいるのは、人、ADAS、そしてマルチギガイーサネットの3つだけだ。人はそこにいて、ADASのスイッチを入れ、ADASはそこにいて、人が自動車を運転するのを見張り、そして、マルチギガイーサネットはそこにいて、ADASに接続する」と。
Alan A. Varghese