産業技術総合研究所(産総研)は6月25日、「量子センサ」として機能するダイヤモンド中の窒素-空孔(NV)センタのスピン情報を、ダイヤモンドデバイスを用いて電気的に検出することに成功したと発表した。

同成果は、東京工業大学 工学院電気電子系の岩﨑孝之准教授、同・波多野睦子教授、産総研 先進パワーエレクトロニクス研究センター 新機能デバイスチームの加藤宙光主任研究員、同・牧野俊晴研究チーム長らの共同研究チームによるもの。詳細は、応用物理学を扱った学術誌「Applied Physics Letters」に掲載された。

量子センサとは量子力学に基づく物理を応用したセンサで、心臓や脳の活動によって発生する生体磁場のような微弱な磁場でも検出することが可能で、その一種であるダイヤモンド量子センサは、「窒素-空孔(NV)センタ」のスピン状態の操作および読み出しを行うことでセンサとして働くことが知られている。

このダイヤモンド量子センサでは通常、NVセンタが発する蛍光を光検出器により計測するが、光学素子による信号の減衰や、素子数の増加による大型化により性能改善と集積化を両立させることが困難なことが課題となっていた。

また、この光学的検出に対し、これまでは金属-ダイヤモンド(絶縁体)-金属による「MIM構造」を用いた電気的検出が取り組まれてきたが、より高感度で小型なセンサシステム構築に発展可能なデバイス構造による電気的検出も求められていたという。

そうした背景から、今回の研究では、横型の「ダイヤモンドp-i-nダイオード構造」を利用したNVセンタの電気的検出技術の実証が実施されたという。

実験から、レーザーによる光励起によってp層近傍のNVセンタから発生した光キャリアは、外部電圧を印加しない状態においても計測できることが判明したという。

また、0~10mWの光を照射した場合に、照射光のパワーに応じた光電流が得られたとしたほか、マイクロ波を印加しながらNVセンタからのスピン情報を電気的に検出するPDMR測定にも成功し、量子センサとして機能することが実証されたという。

  • ダイヤモンド量子センサ

    (左)NVセンタを内包する横型ダイヤモンドp-i-nダイオードの模式図。レーザーを走査しながら電気的信号が検出され、それによって拡散長が評価された。(中央)電気的に検出されたNVセンタからの光電流。正の電圧はダイオードに対して逆バイアスが表されている。レーザーパワーを0~10mWまで変えたときの結果。(右)PDMRスペクトル。信号の谷がスピン状態の共鳴点であり、外部磁場による分裂は磁場センサとして機能することが示されている (出所:産総研Webサイト)

これまでは、NVセンタから生成された光キャリアがどの程度の距離を移動できるかが明らかになっていなかったという。今回行われた研究では、光照射の位置を変えて、電気的信号の距離依存性を測定することで、NVセンタから発生する光キャリアの拡散長の測定が行われたとのことで、この知見は固体量子センサの集積化の設計において重要となるものだという。

また今回の研究成果は、ダイヤモンドデバイス技術に基づく量子センサの効率的な電気的検出および集積化に道を開くものだという。今後、ダイオードの「アバランシェ増倍」によって、NVセンタからの信号強度を数桁向上させられる可能性もあるとしており、それにより、高感度固体量子センサの発展に貢献することが期待できるとしている。