東北大学と同志社大学は6月18日、新たに発見した遺伝子「CCDC152」が、RNAとして作用することで、人体にとって必要だが、増えすぎると血糖値を増加させてしまうタンパク質「セレノプロテインP(SeP)」を減少させる働きがあることを明らかにしたこと、ならびにCCDC152を「L-IST」と命名したこと、糖尿病の予防効果で知られている緑茶に含まれるカテキンの一種である「エピガロカテキンガレート」にL-ISTを増加させ、SePを減少させる作用があることが確認されたことを発表した。

同成果は、東北大 大学院薬学研究科の斎藤芳郎教授、同志社大大学院 生命医科学研究科の三田雄一郎助教らの共同研究チームによるもの。詳細は、核酸に関連する物理・化学・生化学を扱う英国科学誌「Nucleic Acids Research」に掲載された。

肝臓で合成され血液中に分泌されるタンパク質「セレノプロテインP(SeP)」は、各臓器にその必須微量元素のセレンを運ぶ重要な役割を担うが、セレンは必要以上に摂取すると毒になってしまうことが知られている。

また、糖尿病患者では、SePメッセンジャーRNA(mRNA)が増加するのに伴ってSePタンパク質が増加する結果、血糖値を下げる作用を持つインスリンの分泌が抑制され、その効果を弱めてしまうことが知られているため、SePタンパク質を一定の値に保つことが生活習慣病の予防、健康維持に重要と考えられている。

研究チームは今回、SeP遺伝子の配列についてデータベース上での解析を実施。その結果、SePと似た構造を持つ遺伝子「CCDC152」を発見。CCDC152遺伝子はその存在自体は知られていたが、その機能は解明されていなかったことから、その機能の調査として、SePを発現分泌する肝臓由来「HePG2細胞」への作用の解析を実施したという。

HePG2細胞にCCDC152遺伝子を発現させたところ、SeP mRNA量は変化しなかったが、SePタンパク質の発現量が減少することが判明。CCDC152がSePタンパク質の量を下げる機能を持つことが判明したという。

また、SePタンパク質を低下させるメカニズムについての解析から、CCDC152はRNAとして作用し、SeP mRNAに結合して、SePタンパク質の合成を抑制することが確かめられたという。

CCDC152遺伝子はSePタンパク質の合成(翻訳)を抑制するRNA分子として機能することから、「Long Non-coding RNA-Inhibitor of SelenoProtein P Translation」の略である「L-IST」と命名された。

さらに、L-ISTを増加させる化合物探索を行ったところ、緑茶に含まれるカテキンの一種である「エピガロカテキンガレート」(EGCg)がL-ISTを増加させ、SePタンパク質を減少させる作用があることが確認された。

これまで高血糖や高脂肪により、SePタンパク質の発現が増加することは知られていたが、SeP発現を低下する機構の存在は知られていなかったという。今回の研究によってL-ISTが発見されたことで、SePの暴走を防ぎ、糖代謝を一定に保つ人体の仕組みが判明したこととなるという。

また、緑茶に含まれるEGCgが、L-ISTを増加し、SePを減少させることも発見された。緑茶は、古くから糖尿病の予防効果があることが知られていたが、L-ISTを介したSeP発現低下作用が予防効果に寄与している可能性が考えられるという。今後、SePレベルの高い糖尿病患者およびその予備軍に対するEGCgのサプリメントや、EGCgをリード化合物としたL-IST発現増加薬などの開発が期待されると研究チームでは説明している。

  • L-IST

    今回の研究の概要。肝臓で合成されて分泌されるSePは、人体にとって必須の元素のセレンを各臓器に届けるという大役を担っている一方で、増えすぎると糖尿病を悪化させる悪玉にもなってしまう。今回、SeP mRNAと結合し、SePタンパク質の合成を抑制する新規遺伝子“L-IST”が発見された。糖尿病予防効果があることが知られている緑茶成分エピガロカテキンガレートが、L-ISTを増加させ、SePタンパク質を減少させる作用があることも判明した (出所:東北大プレスリリースPDF)