大阪大学(阪大)は6月4日、人体に安全かつ医療機関や公共機関・家庭などでの殺菌・消毒用途に使うことのできる波長220~230nmの深紫外光源実用化の第一歩として、従来とはまったく異なる構造の小型微小共振器デバイスを開発し、波長856nmのレーザー光から波長428nmの青紫色光を波長変換により発生させることに成功したと発表した。

同成果は、阪大大学院 工学研究科の南部誠明大学院生、同・上向井正裕助教、同・谷川智之准教授、同・片山竜二教授らの研究チームによるもの。詳細は、応用物理学を扱う国際科学誌「Applied Physics Express」に掲載された。

医療機関や公共機関・家庭での殺菌・消毒用途として、波長220~230nm程度の深紫外光源が一部で活用されており、光源としてエキシマランプ(波長222nm)や深紫外LED(波長265nm)が用いられているものの、エキシマランプは効率が低く寿命も短い、深紫外LEDは人体に有害な波長であるといった課題があった。また産業用途として、非線形光学結晶を用いた波長変換による高出力深紫外レーザーもあるが、これを医療機関や公共機関・家庭向けに応用することは難しいという。

こうした背景のもと、研究チームは今回、人体に無害かつ強い殺菌・消毒効果が期待できる波長220~230nmの深紫外光源を、青色半導体レーザーと高効率な波長変換デバイスを組み合わせることで実現できるのではないかと考察。実現に向け、デバイス開発に挑んだという。

小型・高効率な波長変換デバイスとしては、主にニオブ酸リチウムナイオベートに代表される自発分極を有する非線形光学結晶である「強誘電体結晶」が用いられており、結晶に電界を印加して分極の向き・分布を制御することが可能であるが、深紫外光に対しては不透明なため、深紫外光発生に適用できなかった。

そこで期待されるのが、その結晶構造から高い光学非線形性と光損傷耐性を有しているワイドギャップ化合物半導体の窒化物半導体で、中でも窒化アルミニウムは波長210nmまで透明なため深紫外光発生デバイスの有力な波長変換用結晶となり得ると考えられたとしている。ただし、従来型のデバイスでは、結晶の表裏を光波の伝搬方向に短い周期で反転させる必要があり、結晶成長でこの構造を実現するのは非常に困難であったという。

そこで研究チームでは、数mmの長さを必要とする従来型の周期極性反転構造波長変換デバイスに代わり、波長変換領域を高反射分布ブラッグ反射器(DBR)で挟んだ微小共振器型波長変換デバイスを提案した。同デバイスは、入射されたレーザー光を増強し、両方向に発生した第二高調波の位相をそろえて取り出すことにより、弱い入射光に対しても高い波長変換効率を達成できるという特徴があるという。構造最適化により、長さ10μm程度のデバイスで高い波長変換効率を期待できることも見出されたとしている。

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    今回開発された窒化ガリウム微小共振器型波長変換デバイスの模式図 (出所:阪大Webサイト)

実際にデバイスに利用する窒化物半導体としては、透明波長が異なること以外は窒化アルミニウムと類似の特性を有する窒化ガリウムを採用。微細加工技術とDBR側壁の平坦性と垂直性を向上させる異方性ウェットエッチングを活用することで、超小型微小共振器型デバイスの作製に成功したという。

  • 青紫色光

    窒化ガリウム微小共振器型波長変換デバイスの走査型電子顕微鏡画像。(a)シリコン台座上の同デバイス。(b)(a)の点線の枠を拡大画像。(c)(b)の点線の枠の側壁拡大画像 (出所:阪大Webサイト)

実際に、波長856nmのレーザー光を照射したところ、波長428nmの青紫色光が発生することを確認。第二高調波発生による原理実証に成功したとしている。

  • 青紫色光

    微小共振器デバイスで発生した波長変換光 (出所:阪大Webサイト)

なお、今回開発された微小共振器構造は、窒化物半導体に限らず種々の非線形光学結晶にも適用可能であるため、第二高調波発生に限らず、類似の構成でほかの非線形光学効果を応用したデバイスを実現することも可能だとしており、例えば波長変換領域が極小であることを利用した広帯域光子対発生デバイスを用いれば、通常の光干渉断層撮影(OCT)では難しい体内の水を多く含む器官を高分解能で観察できる可能性があるとしている。

2021年6月8日追記:記事掲載当初、開発した微小共振器型波長変換デバイスの大きさを「10mm程度」と記載しておりましたが、正しくは「10μm程度」となりますので、当該箇所を修正させていただきました。ご迷惑をお掛けした読者の皆様、ならびに関係各位に深くお詫び申し上げます。