宇宙でもエッジコンピューティングが当たり前になる時代が来るようだ。
従来から宇宙のエッジコンピューティングの原理や利用構想についての学術論文などは存在していたと理解している。
最近では、インターネット衛星の大規模コンステレーション計画であるSpaceXの「Starlink計画」やAmazonの「Kuiper 計画」などでもこのキーワードをたまに耳にするが、衛星にエッジコンピュータを搭載し、処理するという取り組みを行っているベンチャー企業のニュースが飛び込んできた。
その取り組みを開始しているのはオーストラリアの宇宙スタートアップSpiral Blue。 今回は、彼らがどんな企業なのか、どのような取り組みをしているのかについて紹介したいと思う。
エッジコンピュータとは?
エッジコンピュータとは、データをクラウドへ送らずにエッジ側でデータ処理、分析を実施するコンピュータのこと。エッジコンピュータとは、IoTデバイスそのものであったり、近くに置かれたエッジサーバーなどであったりする。
データをクラウドで集中処理するのではなく分散処理するので、リアルタイム性が向上する、通信遅延がなくなる、処理の負荷が分散されるなどのメリットがあり、実際に農業、自動運転などの分野で活用が開始されている。
自動運転では、車両に搭載されたカメラやセンサで他の車や歩行者などの状況をリアルタイムに収集し、そのデータをクラウドに送信して、AIがビッグデータ解析を行い、車両にフィードバックするというプロセスで実行されているが、自動運転では1秒未満というレイテンシが致命傷になるため、低レイテンシが要求される。
エッジコンピューティングを活用することで自動運転は、車両の近くにあるエッジサーバや車両本体などでデータ解析を行うことができ、遠く離れたクラウドとデータの送受信を行う従来型の自動運転と比較して、高いリアルタイム性を確保することができ、より安全な運転が実現できることから、トヨタ自動車などは「Automotive Edge Computing Consortium (AECC)」を設立し、この分野で尽力している。
農業分野では、自動運転の農業機械やドローンなどを使ってデータ収集・分析が行われており、収集した膨大なデータの分析、処理にエッジコンピューティングを活用することでリアルタイム性を有した処理が行われている。
アメリカのBlue River Technologyは、NVIDIAのエッジプラットフォームを活用したり、アメリカのSlantRangeはマイクロソフトのAzure IoT Edgeというエッジプラットフォームを活用し農業分野で貢献している。
地上のどのようなシーンでエッジコンピューティングが活用されているか、ご理解いただけたと思うが、では、宇宙でもなぜエッジコンピュータが必要なのであろうか。次で見ていこう。
Spiral Blueのエッジコンピュータとは?
Spiral Blueとはオーストラリアの宇宙スタートアップベンチャーで、Space Edge Zero(SEZ)というエッジコンピュータを開発している。SEZのコアは、NVIDIA Jetson Nanoを活用しているようだ。
これらの開発のために、オーストラリア宇宙庁やニューサウスウェルズ州から助成金を獲得するなどし、2020年1月28日、SEZのコンポーネントテストを完了している。
Spiral Blueは、近年、Space Edge-1(SE-1)というエッジコンピュータを開発。コアは、NVIDIA Jetson Nano よりも処理能力やストレージが優れたNVIDIA Jetson Xavier NXを活用しているという。
では、実際にSEZはどのような衛星に搭載されるのかというと、ポーランドの宇宙ベンチャーSatRevolutionのSWIFTというCubesatに搭載予定だ。
SpaceXのFalcon9によって2020年12月の打ち上げを予定していたが、2021年6月以降にVrigin Orbitによって打ち上げられることになっているようだ。
SWIFTは、6メートル分解能のマルチスペクトル画像光学センサを搭載していて、撮像後にエッジコンピュータであるSEZが画像データをリアルタイムで取り込み、処理を行う。 また、AIによってこれらの画像でさまざまなアルゴリズムをテストする予定だという。
そしてSE-1。2021年5月18日に、Spiral Blueがプレスリリースしたのが、SatellogicのHosted Payload Programを活用したSE-1の軌道上試験の実施で、2022年3月に打ち上げを予定しているという。
この衛星は、ハイパースペクトルセンサやセンサは不明だが、分解能1メートルの画像を提供できるという。
では、宇宙でなぜエッジコンピュータは必要なのであろうか。
従来から衛星画像市場では、撮像した衛星画像の生データは、衛星に搭載されたデータ蓄積装置により保存され、然るべきタイミングでデータが衛星から地上へとダウンリンクされていた。
そして、ダウンリンクされた生データを、地上でラジオメトリック補正、幾何補正、オルソ補正処理などの処理を実施してカスタマーに提供している。
では、SEZやSE-1のエッジコンピュータを衛星に搭載するとどのようなことが可能になるのだろうか。
SEZやSE-1が軌道上オンボードで、どこまで何の処理を実施するのか、できるのかは不明だが、たとえば、エッジコンピュータにより大量の全ての生データをダウンリンクするのではなく、カスタマーが所望する部分だけの衛星画像を提供することができるようになるのだ。
つまり、衛星画像におけるサプライチェーンにおいて、変化が起こり、衛星画像の処理や提供などのプロセスに、柔軟性、リードタイムやコスト削減などのメリットが生まれることは間違いないだろう。
いかがだっただろうか。筆者のようなOld Space出身者は、従来から存在するサプライチェーンが当然と思い込み、新しい発想を生みだし難いが、Spiral Blueのような従来のサプライチェーンに疑問を呈し、技術開発とともに課題解決をしていく素晴らしい取り組みにとても魅力を感じる。