イギリスの海軍「ROYAL NAVY」から2021年5月5日、将来の軍事作戦を想定しジェットスーツ(Jet Suit)で飛行しながら敵の船へと乗り込むシーンを想定し訓練したというプレスリリースが配信された。

このジェットスーツはGravity Industriesという企業が開発したもので、着用すれば空を飛ぶことができるというちょっと驚きのテクノロジーが活用されている。では、Gravity Industriesがどんな企業なのか、ジェットスーツはどのようなものなのか、今日はそんな話題について触れたいと思う。

Gravity Industriesとは?

Gravity Industriesは、2017年に設立されたイギリスのベンチャー企業だ。創設者は、Richard Browning(リチャード・ブラウニング)氏。Gravity Industriesを設立する前にイギリスの海軍予備員でもあった。

彼は、すごい技術を発明した。それがジェットスーツだ。腕にそれぞれ2つのジェットエンジンと腰部分にもジェットエンジンがついており、この噴射で浮き上がり、姿勢を制御しながら自由に飛行することができる。ジェットエンジンの燃料は灯油で、ジェットスーツ本体は3Dプリンターで製造されているという。報道では時速128km、3600mの高さまで上昇することができるという。多くのメディアからは、このジェットスーツで飛行している姿から、「アイアンマン」と呼ばれているようだ。

  • Gravity Industriesのジェットスーツ

    Gravity Industriesのジェットスーツ(出典:Gravity Industries)

また、ギネス記録も樹立している。2019年11月14日、時速136.891kmのスピードを叩き出し、「ボディー・コントロールド・ジェット・エンジン・パワード・スーツ最速部門」で世界記録を達成した。

ジェットスーツは、軍事作戦用だけじゃない、エンタメ要素もある!

Gravity Industriesは、2021年4月にオランダ海軍特殊部隊の軍事訓練に参加し、ボートから浮いて、敵の船に飛び移って、模擬的な銃撃戦を行なって再びボートに帰還する、というミッションを成功させた。

ボートの後方には離陸、着陸をする専用のチェアのようなものがある。従来であれば敵の船に潜入する際は、ヘリコプターから降下するか、敵の船に横付けしてよじ登るしか、方法はない。しかし、このジェットスーツであれば、素早く乗り込むことが可能だ。もしオランダ特殊部隊全員がジェットスーツを着用していたなら、作戦はスピーディーに終了するだろう。

オランダ海軍特殊部隊がジェットスーツで飛行する様子

また、冒頭に紹介したイギリス海軍においても、類似の訓練が実施された。イギリス海軍は訓練後、現段階では採用することができないが大きなポテンシャルをもつテクノロジーであると評価し、関心がある旨を示した。

  • イギリス海軍ジェットスーツ
  • イギリス海軍ジェットスーツ
  • イギリス海軍のジェットスーツをきた訓練の様子 (出典:Royal Navy)

イギリス海軍がジェットスーツで飛行する様子

ここまで軍事作戦での使用例を見てきたが、このジェットスーツは軍事作戦用だけではなくエンターテインメントの要素を打ち出した市場も狙っている。

例えば、イギリスの高級百貨店チェーン「Selfridges(セルフリッジズ)」にて富裕層向けに約5,000万円で販売された。現在もSelfridgesで購入可能かは不明であるが、Gravity Industriesのホームページでは、Flight Experience(飛行体験)とFlight Training(飛行訓練)の2つのサービスが掲載されている。

Flight Experienceは、1人2800ドル+VAT、Flight Trainingは、1人8300ドル+VATという価格だ。ホームページには、ジェットスーツを着用した人が、補助の綱をつけた状態で、上下に浮き上がっている画像がある。おそらくFlight Experience(飛行体験)だろうか。もちろんFlight Training(飛行訓練)の初期の段階でも実施するかもしれない。 ただ、スーツを着れば簡単に飛ぶことができるのではなく、自由自在に飛行するためには、飛行中に自分自身の姿勢などを制御するための筋力やバランスが不可欠のようだ。実は、相当の肉体改造とトレーニングが必要だという。

いかがだっただろうか。ジェットスーツの未来を想像すると、少々、宇宙旅行の未来と似ている、そう感じてしまう。ジェットスーツが約30kgであること、体重が重い方、筋力やバランス力が弱い方、ハンディーキャップがある方など誰でも飛行可能とは行かないという課題があるが、今後は、小型軽量化、推力、比推力などのテクノロジーの革新があるだろう。

少し別の視点で言えば、今現在、価格帯が高いため富裕層向けであり、訓練も少しの過酷さが残るものだが、将来おそらくテクノロジーが進化し、低価格化し、誰でも容易に飛行できるものとなり、訓練などが簡素化される、もしくは訓練がなくなる、そのような市場となっていくのだろう。