慶應義塾大学(慶大)は4月27日、ナノメートルサイズのスポンジ状細孔を持つガラス材料である「ナノ多孔体」に閉じ込めた液体ヘリウムが、「4次元XY型」と呼ばれる「超流動相転移」を起こすことを明らかにし、空間的には3次元でありながら、4次元の相転移を示す物質が現実に見つかったことを発表した。
同成果は、慶大大学院 理工学研究科 基礎理工学専攻の谷智行大学院生(研究当時)、慶大 理工学部物理学科の白濱圭也教授、同・永合祐輔助教らの研究チームによるもの。詳細は、日本物理学会英文誌「Journal of the Physical Society of Japan」に掲載された。
物質には固体・液体・気体といった相があり、その間で状態が変化することを「相転移」というが、物理学の重要な問題として20世紀後半に盛んに研究が行われ、「繰り込み理論」によりその基本的な理解は確立された。
相転移は、その起こり方が物質の「次元」により大きく異なるという重要な特徴がある。普通の物質は空間の全方向に原子や分子が連なった3次元物質なのはいうまでもない。しかし、原子1層分の厚みしかない炭素のシート状物質であるグラフェンのように、極めて薄い膜のような物質は2次元と見なせる。
2次元では、材質が同じでも3次元とはまったく異なる機構の相転移が起こることがあるという。また3次元の相転移は理論的に考察が難しいが、次元を減らして2次元や1次元にすればよりシンプルになるので問題を解けることもある。このように空間の次元性は、相転移において重要な役割を担っているとされる。
そして意外なことに、多くの相転移では空間次元を仮想的に「4次元」と考えると、最も簡単な相転移理論が成り立つという(縦・横・高さに続く第4の空間軸を想定した4次元空間)。もし4次元相転移が実在すれば、相転移の理解に最も基本的な枠組みを与えることになるという。
相転移の中でも特殊なものとして、液体ヘリウムが示す約2K(-271℃)以下の極低温において、粘性のない超流動状態に相転移した状態「超流動相転移」が知られており、これまでの詳細な研究から、相転移の理解に重要な貢献を果たしてきたという。
相転移が起こるとき、比熱などの量が無限大に発散するような異常な挙動である「臨界現象」が示されるが、その振る舞いを記述する「臨界指数」の値により、相転移は「普遍性クラス」と呼ばれるカテゴリに分類されるというが、ヘリウムの超流動相転移は「3次元XY型」という普遍性クラスに属するという。
一方、固体壁に吸着したヘリウムの薄膜は2次元物質として知られ、「2次元XY型」の「BKT超流動相転移」を示すなど、特徴的な相転移を起こすことが知られており、研究チームは今回、液体ヘリウムをナノ多孔質ガラスに閉じ込めたときに起こす超流動相転移を詳細に調査することにしたという。
具体的には、ナノ細孔中のヘリウムの流れが計測され、超流動密度という量の臨界指数が正確に決定された。その結果、さまざまな圧力で臨界指数がすべて「1」という値を取ることが確認されたとする。3次元XY普遍性から期待される値は本来0.67(3分の2)で、今回の結果はそこから大きく離れるものとなった。これは4次元XY普遍性に属する相転移の臨界指数値であり、ヘリウムをナノメートルサイズの無数の孔に入れると4次元相転移を示すという結果が確認されたとする。
実は研究チームはこれまでの研究で、ナノ多孔体中のヘリウムが「量子相転移」という特殊な相転移を起こすことを確認済みで、この量子相転移は、通常の3次元空間での揺らぎに加えて、虚数時間軸方向の次元をもう1つ考えることで理論的に説明することが可能だという。
これまでは絶対零度では、「3空間次元+1虚時間次元」の4次元量子相転移が起こると理論的に考えられていたが、今回の研究により、4次元相転移が絶対零度ではない温度でも起こることが確認されたということとなったとする。
なお、研究チームによると、4次元相転移は、理論的には最も単純な相転移だという。ただし、これを3次元空間(4次元時空)の現実の物質で実現することは、当然ながら困難であり、今回ナノ多孔体中ヘリウムが4次元相転移を示すことが確認されたことで、今後、相転移やトポロジカル量子現象の理解に貢献することが期待されるとしている。