岐阜大学、北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)、大阪大学(阪大)の3者は4月20日、筋肉のような収縮性のファイバー(人工筋肉)を、光照射した場所に自在に形成させることに成功したと発表した。
同成果は、岐阜大 工学部の新田高洋准教授、JAIST 先端科学技術研究科 生命機能工学領域の平塚祐一准教授、阪大大学院 工学研究科 機械工学専攻の森島圭祐教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature Materials」にオンライン掲載された。
あらゆる動物が身体を動かすために使っている筋肉は、生体分子モーター「モータータンパク質」で構築されており、数百μm)から数十mでスケーラビリティに富んだアクチュエータとして知られている。また、機械のアクチューエータよりも高い効率で力学的仕事を行ってることから、産業分野での応用できれば、これまでにはない形での活用ができるものと期待されている。
しかし、筋肉自体または筋肉細胞をアクチュエータとして利用する試みは基礎研究レベルでは報告されているものの、筋肉細胞の安定性・保存性の問題やアクチュエータとして組み込む技術が未発達であるため、実用化には至っていない。また、筋肉組織の構成分子はほぼ同定されているが、それら構成分子から筋肉を再構築する技術も開発されていなかったという。
こうした背景を踏まえ研究チームは今回、生体内の収縮性ファイバーの形成過程に着想を得て、人工筋肉を自在に形成させる分子システムを開発することに成功したという。
具体的には、モータータンパク質の一種である「キネシン」を遺伝子工学的に改変し、フィラメント状にすることにより、レールタンパク質の「微小管」と混ぜるだけで、モータータンパク質の動的な機能により自己組織的に人工筋肉を形成させることができたという。さらに、光照射によりモーター分子のフィラメント化を開始させ、照射した部位のみに人工筋肉を形成させることを可能としたとする。
さらに、この人工筋肉を大きさ数mmの機械構造内に形成させることにより、微小機械を駆動させることに成功したともする。ただし、この人工筋肉には生物の筋肉のように何度も伸縮はまださせられず、収縮が1回のみで、かつ形成と同時に収縮が起こるというものであったという。
今回の人工筋肉は、光照射により形成を開始可能なことから、たとえば光造形型の3Dプリンタに組み込めば、人工筋肉の光造形などが可能になることが将来的に期待できる。生体材料で駆動するマイクロロボットやソフトロボットの3Dプリント技術の基盤技術となる可能性が高いという。
また今回の人工筋肉はまだ収縮が1回のみなど、用途が限定されているため、今後、制御用の分子システムを開発することにより、可逆または振動可能な人工筋肉を開発し、マイクロロボットやソフトロボットへの実装を目指すとしている。