東北大学、理化学研究所(理研)、金沢医科大学の3者は、妊娠期の母親が運動をすることが、子供の将来的な肥満を防ぐことにつながるメカニズムを明らかにしたと発表した。

同成果は、東北大 学際科学フロンティア研究所の楠山譲二助教、理研の小塚智沙代基礎科学特別研究員、金沢医科大の八田稔久教授に加え、米・ハーバード医科大学ジョスリン糖尿病センターのLaurie Goodyear教授のほか、米・コロラド大学、米・テキサス大学、デンマーク・オーフス大学、カナダ・オタワ大学の研究者も参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、基礎から臨床までの代謝を題材とした学術誌「Cell Metabolism」に掲載された。

運動不足や乱れた食生活などが原因となって発症する2型糖尿病。その患者は2045年までに、日本を含めて先進国を中心に6億3000万人に達すると予想されており、肥満や糖尿病の病因に対する抜本的な介入が必要とされている。

近年の研究から、肥満や2型糖尿病を患っている母親から生まれた子供は、その子供が健康的な生活をしていても糖尿病のリスクが高くなってしまうことが報告されるようになってきた。

今回の研究では、母親の妊娠中の運動が子供の肝臓における糖代謝を向上させることで、将来、肥満や糖尿病になりにくくなる分子メカニズムが解明された。具体的には、妊娠中の運動は、マウスとヒトの胎盤で「スーパーオキシドジスムターゼ3」(SOD3)の発現を増加させていることが判明。この胎盤由来のSOD3により、母親の運動の有益な効果が子供へと伝達していることが実証されたとする。

また、SOD3は母体内で胎子の肝臓に働きかけ、「エピジェネティクス」の改変の一種である「DNA脱メチル化」によって、主要な糖代謝遺伝子の発現を増加し、肝機能を改善させていることが確認されたともする。

さらに、胎盤からのSOD3発現には、運動によるビタミンD受容体シグナルが必要であることも突き止めたとしているほか、日常の活動レベルが高いヒト妊婦では、血中と胎盤でSOD3の量が上昇しており、妊娠期運動効能のマーカーとして利用できることも示唆されたとしている。

なお、研究チームによると今回の研究は、妊娠期の運動が子供の将来的な健康に及ぼす根底的な分子機構が実証されたものであることに加え、運動応答性臓器としての胎盤の重要な役割が明らかにされ、新たな胎盤機能の存在が提唱されたとしており、胎盤を通じて子供の将来の健康を増進できれば、これまでにない次世代医療の実現につながる可能性があるとしている。

  • 東北大学

    今回の研究成果の概要 (出所:共同プレスリリースPDF)