韓国の中堅半導体メーカーMagnaChip Semiconductorは、北京を本拠とするグローバルな中国系資本のWise Road Capitalが主導するコンソーシアムとの間にすべての事業を売却することを前提とした売買契約を締結したと発表した。
Wise Road Capitalは、株式公開買い付けにより直近の株価に54%のプレミアムを乗せた1株29ドルでMagnaChipの全株を取得することにしており、かかる金額は14億ドル(約1500億円)規模となる見通しである。売却交渉は米JPモルガンが主管し、韓国国内法務法人の「広場(クァンザン)」が諮問を行っているという。
MagnaChipは、2004年にHynix Semiconductor(前Hyundai Electronics、現SK Hynix)の経営不振によりメモリ部門をHynixに残し、非メモリ部門を韓国内投資会社に売却することにより誕生した半導体メーカーで、その時価総額は1兆ウォン(約970億円)、年間売上高は5億ドル(2020年)となっている。
すでに2020年3月末にSK Hynixが資本参加する韓国の私募ファンドにファウンドリ事業部門を4億3500万ドルで売却していたが、今回の売却はそれ以外の半導体製造部門の売却となる。MagnaChipのファウンドリ部門は、SK Hynixに事実上戻った形で、現在はSK Hynixのファウンドリ子会社であるSK Hynix System ICの一部として稼働している。
現在、MagnaChipは、ディスプレイドライバIC(DDIC)、車載電源管理ICやパワー半導体をはじめとした産業、通信、民生用レガシー半導体を200mmウェハを用いて製造している。有機EL向けDDICでは、Samsung Electronicsに次いで世界2位のシェアとされており、主にSamsung DisplayやLG Displayに供給しているとされている。
MagnaChipの最高経営責任者(CEO)であるYJ Kim氏は「今回、Wise Road Capitalに事業を売却したが、経営陣や従業員の雇用はそのまま継続するため、株主や顧客だけではなく従業員からも歓迎されるだろう。これによりディスプレイ向けおよびパワーエレクトロニクス向け半導体製造で魅力的な高成長の機会を得ることとなる。特に有機ELディスプレイドライバビジネスでは、リーダーシップの地位を狙えるようになることが期待されるほか、MicroLED向けデバイスにも積極的に取り組んでいく」と今回の事業売却について説明している。
Wise Road Capitalは、規制当局の承認を得た後、2021年下半期までに取引を完了する予定であるという。この中国系ファンドは2016年にオランダのNXP Semiconductorsの標準製品部門を28憶ドルで買収していることでも知られる。
なお、今回のMagnaChip買収に伴い、韓国の半導体業界内部からは、半導体技術、とりわけ韓国勢が主流となっている有機EL向けDDIC技術の中国への流出を懸念する声が上がっている。売却の正式決定に関しては、まだ韓国政府の承認手続きが残っているが、承認されることとなれば、韓国勢が強みを持つ有機ELディスプレイ業界に影響がでるのではないかとの懸念を韓国の半導体業界関係者は示している。