東京工業大学(東工大)、九州大学、慶応義塾大学の共同研究チームは、東工大のスパコン「TSUBAME3.0」を用いて野球ボールの縫い目の回転に関するシミュレーションを実施。「負のマグヌス効果」がフォークボールを落下させる大きな要因となることを確認したと発表した。

同成果は東工大学 学術国際情報センターの青木尊之 教授、同大 工学院機械系 修士課程2年の大橋遼河氏、九州大学 応用力学研究所の渡辺勢也 助教、慶應義塾大学 法学部の小林宏充 教授らによるもの。詳細は2020年11月に開催された「日本機械学会 シンポジウム:スポーツ工学・ヒューマンダイナミクス2020」にて発表された。

プロ野球やメジャーリーグにおいて、ボールが下に落ちる球種であるフォークボールやスプリットは、打者の手元で急激に落下するため、投手が打者を打ち取るための決め球として用いられている。また、野球はITを活用して、さまざまな打者や投手の評価のための指標などが生み出されるなど、科学的な分野との親和性も高く、手元で伸びるストレート(フォーシーム)は、マグヌス効果(マグヌス力)により、自然落下の放物線軌道よりもホップするため、打者の予測軌道とは異なり、打たれにくいといったことが言われている。

これまで、回転する球に対しては数値シミュレーションが行われていたが、回転する(縫い目のある)野球ボールに対しては、数値シミュレーションが行われていなかったという。そこで、今回の研究では、TSUBAME3.0を用いて、回転しながら高速で飛翔する野球ボールに対し、縫い目まで詳細に計算する数値流体シミュレーションを実施。計算機の演算能力の向上により、ボールの表面近傍と後流に高解像度の計算格子を効率よく配置できるようになったこと、ならびに移動する縫い目に対して精度の良い境界条件を設定できるようになったことで実現することができたという。

その結果、フォークボールは低速回転で上向きの揚力が弱いために放物線軌道に近づくのではなく、下向きの力「負のマグヌス効果」が縫い目の角度が-30度~90度の範囲で発生することにより軌道が下がることを見出すことに成功したという。また、同じ球速と回転数のフォーシームでは「負のマグヌス効果」が発生しないことも見出したという。

  • 負のマグヌス効果

    ツーシーム回転のボールの縦方向に働く力のシミュレーション図 (出所:共同プレスリリースPDF)

さらに研究チームは、投手がボールをリリースした直後の「球速」・「回転速度(回転数)」・「回転軸」が分かれば、その後のボールの軌道を精度よく再現できることも確認したという。例えば、球速が時速150kmで回転数が1,100rpmのツーシームとフォーシームでは、縫い目が違うだけで打者の手元でのボールの落差が19cmほど異なることが示されたとするほか、福岡ソフトバンクホークスの千賀滉大投手が投げる落差の大きい、お化けフォークと呼ばれるフォークボールの場合、縫い目の回転はツーシームではなくジャイロ回転と言われているが、その場合、1,100rpmのツーシームよりさらに軌道の落差が大きいことが分かったという。

  • 負のマグヌス効果

    縫い目と回転数に応じたボールの軌道の違い (出所:共同プレスリリースPDF)

なお、今回の成果について、研究チームでは、野球ボールのほか、サッカーの無回転ボールやバレーボールの軌道変化、空力が強く影響するウインタースポーツなどにおいて、スパコンを用いた空力解析を戦術に取り入れることが期待できるようになるとしているほか、今回の数値シミュレーションはさまざまな産業分野への応用も期待できるとしている。