NTTデータは3月16日、「NTTデータR&Dフェスタ2021」と題するオンラインイベントを開催した。本記事ではその中から、「オンラインファーストを実現するフルデジタルオフィスのご紹介」の内容を紹介する。

同セミナーの講師は、同社技術革新統括本部 渡辺尚弘氏が務めた。

テレワークの普及が進み、さらにバーチャル出社という新たな働き方が注目される中で、同社が研究開発を進めるフルデジタルオフィスは、渡辺氏によると「まさにバーチャル出社の実現を目的としています」とのことだ。

  • フルデジタルオフィスのイメージ

これには大きなコンセプトが3つあるという。

1つめは、VR(仮想現実)技術を使用して、まるで対面にいるかのような高臨場のコミュニケーションを実現すること。

2つめは、同じくVR技術により、物理的な制限を超えた働き方を可能とすること。

3つめは、VR空間の中でAI(人工知能)を仕様することで、人間能力を拡張することを目指すこと。

これら3つの実現をコンセプトに、フルデジタルオフィスの開発を進めていると渡辺氏は語る。

とはいえ、これは昨今のCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)の広がりを受けて始めたものではなく、2017年に筑波大学と共同研究を始めたとのこと。2019年度まで同社でR&Dを実施し、2020年度はその研究成果を基に国内外のグループ会社がサービスとして商用化すべく、それぞれ個別にカスタマイズしながら開発を進めている段階だという。

具体例として、VR会議システムの紹介があった。

その特徴は、自宅や外出先、オフィスなど、いろいろな場所から仮想世界の会議室にアバター(分身)として入り込み、本当にそこに人がいるかのような感覚でコミュニケーションができることだという。

  • VR会議システムの特徴

アバターは本人の写真から作成したリアルなもので、ヘッドマウントディスプレイやコントローラの動きをアバターの動作に反映すると共に、発言内容に応じて目や口が動いて表情が変わるとのこと。会議室内の音声は参加者の位置関係を把握していて、例えば右にいる人の声は右耳から聞こえるのだそうだ。

さらに同システムは、Cognitive AIを使用した音声認識・翻訳機能を持つ。これは、会議内の発言を音声認識でテキストに変換してアバターの頭上に吹き出しとして表示し、また会議記録として自動的に保存するもの。

  • 音声認識と自動翻訳機能

その表示内容はユーザーの言語設定に合わせて相互に翻訳するため、例えば英語ユーザーの発言は日本語ユーザーには日本語に訳して表示するため、グローバルな会議でもお互いの得意な言語で参加可能ということだ。

今後は、参加者のより複雑な感情を表情として反映し、会議にとどまらず実際のオフィスをVR空間内に実現して、オフィスをいつでもどこでも持ち運び可能にすることを目指している。

同システムにはこの他、ドキュメント管理機能、会議の中継機能、AIエージェント機能があると渡辺氏は紹介する。

ドキュメント管理機能とは、ドキュメントサーバとの連携によりVR空間内に効率的に資料を表示し、参加者と共有可能にするものだ。

会議の中継機能は、リアルタイムのチャット形式で会議の内容をブラウザから参照可能とするもの。これにより、VR会議に参加していない人でも会議の内容を把握可能となり、チャットによる発言も可能という。

  • 会議中継機能のイメージ

AIエージェント機能は、VR空間内での作業を支援するため、例えば資料の参照やブラウザにお気に入り登録してあるページの表示など、音声入力での入力補助を可能とするものだ。現状では簡単なジョブのみ可能ながら、他社のチャットボットとの連携により作業の範囲拡大も可能だと、渡辺氏は説明する。

同システムを応用すると、テレワークでは難しい、例えば講演会や議論を目的とする打ち合わせなども実現可能だという。渡辺氏はその例(ユースケース)として、現実空間の蓄積と仮想展示会の1つを紹介する。

現実空間の蓄積とは、現実空間を3Dスキャナで取得してVR空間に再現するもの。その用途としては、単に3Dの物体を表示するだけではなく、「新しい展示会の形として空間そのものを表示することも可能になります」(渡辺氏)という。また、「建築現場の進捗確認や、事故現場の検証を後で複数人で行うといったことも可能になります」と渡辺氏は紹介した。

  • 現実空間の蓄積のイメージ

コロナ禍の影響で、以前のような会場に参加者を集めた展示会の開催は難しくなっている。仮想の展示会も一部で開催されてはいるが、ブーズの賑わいなどリアルの展示会と同様の臨場感を得ることは、現状では難しい。

渡辺氏は、「当社の技術であれば、現実の展示会と同じような賑わいなどを、仮想空間の中で再現できるようになります」と胸を張る。

  • 仮想展示会のイメージ

この他にも、例えば講演会や教室、バーチャルショールーム、ワークショップ、Agile(アジャイル)開発といった利用方法を想定しているとのことだ。

フルデジタルオフィスの提供は遠い将来の話ではなく、同社の国内・海外のグループ会社が、それぞれのサービスとして独自に機能拡張しながら商用化に向けた開発を進めているという。

渡辺氏は「2021年度中にサービス利用が可能な形で披露可能になると考えております」と見通しを語り、セミナーの取りまとめとした。

  • 今後のビジネス展開