リーマンサット・プロジェクト(rsp.)は2月11日、オンラインで記者会見を開催し、開発した超小型衛星「RSP-01」について説明した。rsp.は「趣味で宇宙開発をしよう」という異色の民間団体。RSP-01はその“初号機”として開発されたもので、米国から2月21日2:36(日本時間)に打ち上げられる予定だ。

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    リーマンサット・プロジェクトの初号機「RSP-01」 (C)rsp.

1Uサイズの中にはわがままがギッシリ

RSP-01は、一辺約10cmの1Uキューブサット。軌道上でアームを伸ばし、先に付いたカメラで“自撮り”することがメインミッションである。rsp.とRSP-01については、開発現場を取材した記事があるので、そちらも参照して欲しい。

参考:宇宙開発が趣味? - リーマン達が作る衛星の初号機がもうすぐ宇宙へ!

rsp.として開発した衛星は、これが2機目となる。1機目としては「RSP-00」があり、2018年に打ち上げられているが、この衛星は試験的な位置づけだった。プロジェクトの開始時から考えていて、もともとやりたかったミッションが“自撮り”。そういった想いから、RSP-01が初号機と呼ばれているのだ。

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    RSP-01の概要。右上の写真のようにアームを伸ばして自撮りする (C)rsp.

RSP-01の愛称は「Selfie-sh」(セルフィッシュ)に決まった。これは自撮り=Selfieというミッションを表しているほか、“Selfish”(わがまま)にもかけた。

プロジェクトマネージャの三井龍一氏によれば、開発方針として「やってみたい」という気持ちを大切にしてきたという。rsp.は趣味の集まりだ。「役立つ」とか「科学的意義」とか、目的に縛られる必要は無い。そもそもが趣味なので、失敗を恐れず、やりたいことをやっていい。やりたいことをわがままに詰め込んだ、それがRSP-01だ。

実際のところ、RSP-01には、1Uサイズ/1.29kgとは思えないほどの機能が盛り込まれている。まず自撮りのためのアーム機構は、伸ばすだけでなく、縮めることもできるマジックハンド方式の機構を採用した。伸ばすだけならもっとシンプルな仕組みで良いのだが、わざわざ戻せるようにしたのは、その方が「スマートだから」(三井プロマネ)だ。

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    あえて複雑なマジックハンド方式を採用。縮められるようにした (C)rsp.

またサブミッションとして、リアクションホイールの技術実証も行う。リアクションホイールは高精度な姿勢制御が可能だが、スペースの制約が大きい1Uキューブサットでは従来搭載が難しかった。RSP-01では、これをアーム軸まわりに搭載。アーム展開時の反動で衛星が回転するのを抑えることも考えられているという。

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    リアクションホイールもプロマネの「やりたい」で搭載 (C)rsp.

趣味だからこそ妥協しないものづくり

そのほか三井プロマネからは、こだわったポイントが4つ紹介された。1つめは無線機の内製化だ。RSP-00では既製品を使っていたが、内製化したことで、サイズは半分に、コストは3分の2にすることができたという。この小型化により、RSP-01では無線機を3台も搭載している。

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    今回、無線機は内製化。サイズとコストを大幅に削減できた (C)rsp.

2つめは、搭載機器の配置だ。前述のアーム機構、リアクションホイールのほか、姿勢制御用の磁気トルカ、搭載コンピュータのArduinoとRaspberry Pi、バッテリなど、RSP-01には様々な機器を1Uサイズに詰め込む必要があった。この苦労のため、設計チームは平日の深夜まで作業することも多々あったそうだ。

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    搭載機器の配置や、配線経路の最適化などにより、なんとか搭載 (C)rsp.

3つめに紹介された試験には特に注目したい。衛星はどこか故障しても宇宙まで修理には行けないため、非常に高い信頼性が求められる。実際、RSP-00は軌道上に放出後、電波を受信することができなかった。RSP-00では十分な試験時間を取れなかったという反省もあり、RSP-01では打ち上げを一度延期し、8カ月程度は試験に使ったそうだ。

特に今回は、故障対策としてFMEA(故障モード影響解析)まで行ったという。故障を想定し、それを防ぐにはどうすれば良いか考え、設計にフィードバックした。趣味でFMEAまでやってしまうのはすごいと思うが、趣味だからこそ本気、ということかもしれない。

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    試験にもこだわった。地味な作業ではあるが、成功のためには非常に重要 (C)rsp.

そして最後はデザインだ。たとえば衛星には青いデザインワッシャが搭載されているが、カメラのアングルの都合上、じつはこれは自撮り画像には写らない。ただ格好良さを追求し、見えないところにもこだわったのだという。またカメラカバーはメカメカしくなっており、三井プロマネのお気に入りとのこと。

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    格好良さは通常の衛星では全く考慮されないところ。趣味ならではだ (C)rsp.

今回、打ち上げにはAntaresロケット/Cygnus宇宙船を使用。国際宇宙ステーション(ISS)に輸送してから、軌道上に放出される。放出日時はまだ決まっていないものの、3月~4月になる模様だ。1カ月程度は軌道上で基本機能のチェックを行い、問題が無ければ、それから自撮りを開始する予定とのこと。

三井プロマネは、「放出の30分後」が勝負の瞬間と指摘する。放出と同時に衛星の電源が入り、タイマーがスタート。30分後に電熱線で糸を解かし、アンテナを無事展開できれば、モールス信号を送り始める。趣味衛星がついに宇宙で動作するか。「趣味」の歴史的な瞬間に注目したいところだ。

“黒子”として存在感を増す宇宙商社

なおRSP-01の打ち上げは、Space BDが提供するサービスを利用しており、今回の会見には、同社エンジニアリング事業部長の寺田卓馬氏が同席、宇宙商社としての役割について説明した。rsp.は今回の初号機のほか、開発中の2号機「RSP-02」と今後開発する3号機「RSP-03」についても、Space BDの打ち上げサービスを利用する計画。

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    Space BDの概要 (C)Space BD

寺田氏は“宇宙商社”について、商社機能+技術力と紹介。「日本の高度成長期、最高品質のもの作りだけでは世界と戦えなかった。商社が黒子役として事業開発を行い、技術力にさらに力を与え、世界と戦える産業になった。我々はこの機能を宇宙分野に適用し、世界を代表する産業を作りたい」と述べる。

同社の中核事業となるのが、打ち上げサービス事業である。この主な役割は、マッチング機能と技術サポート。顧客となる衛星ユーザーには、希望する打ち上げ時期と投入軌道があるが、自分で打ち上げ手段を探し、交渉するのは骨が折れる。両者の間に入り、各国の打ち上げ手段の中から、最適なものを提案するのが同社の仕事だ。

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    JAXAはISSからの放出やロケットへの相乗りを民間に開放しており、同社はその事業者として選定された (C)Space BD

衛星は、作っただけで打ち上げてもらえるものではない。事前に、様々な技術審査や申請が必要になる。寺田氏は「書類作業などは顧客の大きな負担になる。我々が間に入れば、顧客は衛星開発だけに集中できる」とメリットを説明する。

特に今回のようなISSからの放出では、宇宙飛行士の安全にも関わるため、審査項目がさらに増える。しかもRSP-01には伸縮するアーム機構まで付いていたため、審査レベルが上がってかなり難航したそうで、三井プロマネは「Space BDからの的確なアドバイスがあり、なんとか調整できた」と感謝した。

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    中央がプロジェクトマネージャの三井龍一氏、その右隣がSpace BDエンジニアリング事業部長の寺田卓馬氏