デンマーク・オーフス大学は2月15日(現地時間)、すばる望遠鏡などを用いて、伴星ふたつと主星を巡るふたつの惑星からなる太陽系外惑星系「K2-290」を観測した結果、ふたつの惑星が主星K2-290Aの自転方向と逆向きに公転していることを明らかにし、なおかつK2-290Aの自転軸とふたつの惑星の公転面が大きくずれていることを明らかにしたと発表した。合わせて、惑星の形成時期に、伴星の重力によって原始惑星系円盤が反転したためにこのような惑星の公転軌道になった可能性が高いことが、コンピュータシミュレーションにより確かめられたことも発表した。

同成果は、デンマーク・オーフス大学 ステラー・アストロフィジクス・センターのマリア・ヒョルス氏、同・サイモン・アルブレヒト氏、東京工業大学 理学院の平野照幸助教(ABC/国立天文台)、同・佐藤文衞教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米科学雑誌「米科学アカデミー紀要(PNAS)」に掲載された。

我々の太陽系では、8つの惑星の軌道は地球の公転軌道面=黄道面上に存在する。要は、8つの惑星ともすべて公転軸はだいたい同じ角度というわけだ。黄道面は太陽の赤道から7度ほどずれてはいるものの、8つの惑星はおおよそ太陽の赤道上を公転しているといえる(厳密には地球と同じ軌道傾斜角の惑星はひとつもない)。そして、どの惑星も公転する向きは太陽の自転と同じ向きだ。このことは、同一の原始惑星系円盤の中心で太陽が誕生し、円盤から惑星が誕生したことを意味していると考えられている。

しかし太陽系外に目を向けると、このように整った惑星系ばかりではない。惑星の公転軸(もしくは太陽系でいう黄道面)が、中心の恒星の自転軸に対して大きく傾いている惑星系も多いのだ。このような中心星の自転軸に対して惑星の公転軸が大きく傾いている状況を生み出すメカニズムは、複数のシナリオが提唱されている。ただし、惑星系ごとに理由は異なることも考えられ、これまでそれぞれの惑星系でどのようなメカニズムが働いた結果、現在の結果になったのかはよくわかっていなかったという。

そうした背景のもと、国際共同研究チームはすばる望遠鏡などを用いて三連星「K2-290」の観測を実施。主星K2-290Aは後期のF型星(G型の太陽よりもやや表面温度の高い主系列星)で、110天文単位強離れた位置にいるのが、伴星のK2-290Bだ。ふたつ目の伴星のK2-290Cはさらに離れた位置にいて、伴星はふたつともM型の赤色矮星(G型よりももっと小型で表面温度も2000~4000度弱ぐらいと、表面は暗くそして赤い)だ。

主星K2-290Aの周囲をふたつの惑星が公転しており、惑星系をなしている。内側の惑星K2-290bは海王星に近いサイズ(サブネプチューンと呼ばれるタイプ)、主星を9日間強で1周。外側の惑星K2-290cは木星ぐらいの大きさで、その1年は48日強だ。K2-290bは至近距離から主星にあぶられて“ホット・ネプチューン”となっていると思われるが、K2-290Cは“ホットジュピター”ではなく、“ウォームジュピター”となっているようである。

このふたつの惑星をすばる望遠鏡の高分散分光器「HDS」や近赤外線分光撮像装置「IRCS」による観測に加え、イタリアのガリレオ国立望遠鏡の高分散分光器「HARPS-N」、ヨーロッパ南天天文台がチリ・パラナル天文台に建設したVLT望遠鏡の高分散分光器「ESPRESSO」も用いて詳細に観察。すると、K2-290Aの自転の向きに対して、両惑星の公転の向きが逆行していることが確認されたのである。

  • 系外惑星系K2-290

    系外惑星系K2-290の模式図。主星K2-290Aの自転の向きとふたつの惑星K2-290bと同cの公転の向きが逆行の上に、K2-290Aの自転軸とふたつの惑星の公転軸(軌道面の角度)も大きくずれている (c) Christoffer Grønne/Aarhus University(出所:すばる望遠鏡Webサイト)

こうした中心星の自転方向と逆行する方向に惑星が公転している惑星系は、K2-290が初めてではない。ただしふたつの惑星は、この惑星系の黄道面に当たる同一の平面上を公転していることから、惑星が誕生する前の原始惑星系円盤の段階から、円盤の回転方向とK2-290Aの自転方向が逆行していたことが考えられるという。

すばる望遠鏡のIRCSによって発見された伴星K2-290Bの存在を考慮した上で、研究チームはコンピュータシミュレーションを実施。すると、K2-290の両惑星の逆行軌道は、惑星の形成が完了する前に、伴星の重力によって原始惑星系円盤が大きく傾けられことに起因する可能性が高いことがわかったのである。

  • 系外惑星系K2-290

    系外惑星系K2-290の惑星形成時の模式図。原始惑星系円盤は、右上のM型の伴星(赤い恒星)からの重力によって、円盤面が大きく傾き、ほぼひっくり返った状態になっている。この円盤から生まれた惑星は、円盤の回転面に沿った軌道と公転の向きを持つことになる (c) Christoffer Grønne/Aarhus University(出所:すばる望遠鏡Webサイト)

伴星の重力によって原始惑星系円盤の向きが大きく変化するという理論は提唱されて10年近く経つが、実際にその観測的な証拠が発見されたのは今回が初めてだという。これまで、中心星の自転軸と惑星の公転軸が大きくずれている系外惑星系は、惑星が形成された後に複数の惑星同士の重力相互作用(重力散乱など)を経験した可能性が高いと考えられてきた。

しかし今回の研究成果から、伴星が存在する惑星系ではそのような過程を経ずとも、大きく傾いた軌道が形成される可能性があることが示された形だ。このことは、連星をなす惑星系の形成進化過程を論じる上で、重要な意味を持つという。

研究チームの主要メンバーである平野助教は、今後、伴星を持つ惑星系をさらに観測することによって、K2-290のように原始惑星系円盤の向きが変化する条件を詳しく調べるととともに、連星をなす惑星系の長期的な安定性を明らかにしたいと展望を述べている。