近年、企業の経営課題としてワークスタイルに大きな変化をもたらした「働き方改革」は、新型コロナウイルスの感染拡大によってその変化を一層加速させている。多くのオフィスワーカーにとってリモートワークは当たり前になり、多様な働き方が許容される社会が生まれつつあるのだ。
こうした世の中の動きに対応した企業のひとつが、三井不動産だ。同社は法人向け多拠点型サテライトオフィス事業「ワークスタイリング」を2017年から展開。契約した企業の従業員が従量課金制で使用でき、個人の業務、グループでの業務、会議や研修など様々なニーズに対応できるサテライトオフィスを全国約100拠点で提供しており、現在では契約企業数600社、会員従業員数は約15万人のサービスにまで成長したという。
では、三井不動産はこの「ワークスタイリング」の事業を通じてどのようにデータを活用したマーケティングを実践しているのだろうか。三井不動産 ビルディング本部ワークスタイル推進部の髙木諒平氏と、DX本部DX二部の矢倉和雄氏が、トレジャーデータが開催したオンラインイベント「PLAZMA 13」の中で『三井不動産が新規事業「ワークスタイリング」で取り組むデータドリブンマーケティング』と題した講演を行った。
三井不動産のDX推進とTreasure Data CDP
三井不動産では、中期的な経営戦略として「テクノロジーを活用して不動産業そのものをイノベーションする」という方針を掲げており、デジタルトランスフォーメーションに取り組んでいるのだという。その推進役となるDX本部は、スマートシティやオムニチャネルといった「事業変革」と業務フローの変革やアクティブな働き方の実現といった「働き方改革」という2つの注力分野を掲げ、顧客分析やデジタルマーケティング施策を推進するためのプラットフォームとして「Treasure Data CDP」を導入しているのだそうだ。では、具体的に同社の事業のなかで、どのようなデータ活用が実現しているのだろうか。
利用促進施策や新規拠点開設での活用
「ワークスタイリング」のマーケティングを行うにあたって、 重要な役割を果たすのが、データ活用基盤である「Treasure Data CDP」と、BIツールである「Tableau」であると、矢倉氏は説明する。
具体的には、会員情報、利用企業情報、従業員の利用実績、アンケートの回答といった会員に紐づくデータと、広告接触履歴、Webのアクセスログ、問い合わせなどのWeb上の行動履歴をTreasure Data CDPで統合管理した上で、可視化したデータを、Tableauを通じて顧客理解に活用していくというプロセスを踏むのだという。
その活用事例のひとつが、会員が必ず利用する会員サイトのUI、UX改善だ。この会員サイトは、施設を利用するユーザーとの最も大きな接点となるため、その利便性を最大限高める必要がある。その実現のために、データを活用して顧客の利用状況を徹底的に分析したのだという。矢倉氏によると、具体的にはサイト解析、ヒートマップ分析などを行いユーザーがサイト内のどのような機能を利用しているかを分析。加えて、ユーザーが様々な機能を利用する過程=カスタマージャーニーを分析し、そこから生まれた発見をサイト改善に活用したのだそうだ。
加えて、高木氏によると、「ワークスタイリング」の事業では、Treasure Data CDPに蓄積されたデータを分析して施設ごとの利用状況を定量的かつリアルタイムに把握。仮説検証を行い、サービスの品質向上施策、利用促進施策、新規拠点開設の検討などに活用しているという。
1人用個室の稼働率が高止まりしている拠点では、設備投資を行って1人用個室を増設。会員の居住エリアデータや拠点開設希望エリアデータを分析し、拠点戦略を策定。また、限定的な利用方法しか経験のない顧客に対して多様な利用方法を訴求するコンテンツマーケティングを実行するなど、利用促進施策でのデータ活用も積極的に行っているという。
データドリブンマーケティングの推進に必要なものとは
最後に、矢倉氏は「ワークスタイリング」におけるデータ活用の取り組みについて、そのポイントを3点挙げた。
ひとつめは、「データ分析体制の内製化」だ。そのメリットについて、矢倉氏はデータ分析の知見や個々のデータが持つ特徴などのナレッジを社内に蓄積することができる点や、社内での連携でデータ活用を推進できるためコミュニケーションロスを最小限にし、データ分析施策の企画からアウトプットまでの対応スピードの高速化を実現できる点などを挙げる。
続いて、「データの民主化による意思決定時間の短縮」については、これまで基幹システムに蓄積され事業部門でもアクセスできなかったデータがTreasure Data CDPによるデータ基盤を活用することによって簡単に利活用できるようになったことで、事業の担当者が分析や示唆の発見を自由にでき意思決定のスピードが高速化するというメリットを挙げた。
そして、最後に挙げたポイントは「日々の会話を増やし、提案を続ける体制」というものだ。普段から事業部門とDXを推進する部門のコミュニケーションが少ないと、DXを進めようとしても「DX部門になにができるのか」「事業部門がどのような課題を抱えているのか」ということが相互に理解できないという状況に陥ってしまう恐れがあるのだという。一方、相互のコミュニケーションが多い場合には事業部門は相談する内容の精度が向上し、一方DX部門では事業部の課題を理解した上で企画を検討できるのだという。
「継続的に双方より提案を続ける、提案を受け入れる関係性作り、体制作りをすることで、DX部門から意識的に事業課題に関心を持ち、提案を続けていくことが重要だ。当然のことだと感じると思うが、意識的に続けていかなければならない重要なポイントだ」と矢倉氏は語った。
そして高木氏は最後に、コロナ禍によって企業活動に大きな変化が生まれていることを踏まえて、「近年、これほどまでに急速に大きく働き方が変化した年はない。人々のニーズを捉えて、新しい働き方を提案していくためには、データに基づいたスピーディな仮説検証、PDCAサイクルの構築が不可欠だと考えている。そのためにも、今後『ワークスタイリング』ではデータドリブンマーケティングを引き続き推進していきたい」と今後のマーケティング戦略の方針を語った。