米宇宙企業スペースXは2021年2月1日、「クルー・ドラゴン」宇宙船による、民間人4人のみでの宇宙飛行ミッションを実施すると発表した。
ミッション名は「インスピレーション4」。搭乗するのは、実業家・起業家のジャレッド・アイザックマン氏ら4人で、同氏が全費用を支払い、他の3人についてはアイザックマン氏が招待する。
打ち上げは今年の第4四半期以降の予定。宇宙機関などの宇宙飛行士の資格を持たない民間人のみでの宇宙飛行は史上初となる。
インスピレーション4とは?
インスピレーション4(Inspiration4)ミッションを主宰するジャレッド・アイザックマン(Jared Isaacman)氏は、米国の実業家、起業家で、現在37歳。1999年、16歳で決済処理サービス「Shift4 Payments」を起業し、現在では業界をリードする企業へと成長させた。
彼はまた、民間機と軍用機のジェット機パイロットとしての資格ももち、2008年と2009年には世界一周飛行を成し遂げたほか、米軍のパイロットを育成する民間企業「ドラケン・インターナショナル」も経営。さらに民間のアクロバット飛行チーム「ブラックダイヤモンド・ジェット・チーム」の一員として曲芸飛行もこなしている。
慈善家としても有名で、世界一周飛行やブラックダイヤモンド・ジェット・チームでの飛行で得られた売り上げや寄付金などをボランティア団体などに寄付している。
インスピレーション4・ミッションもまた、子どもの白血病やがんの治療、研究施設であるセント・ジュード・チルドレンズ・リサーチ病院への寄付や意識の向上のために行うとしている。
同ミッションにはアイザックマン氏のほか、3人の民間人も参加する。この3人分の運賃についてもアイザックマン氏が支払い、同氏が無償で招待する。支払った金額は明らかにされていないが、1人あたり5500万ドル以上(約58億円以上)とも言われる。
アイザックマン氏以外の3人については、1人はセント・ジュード・チルドレンズ・リサーチ病院の女性の医療従事者がすでに選ばれており、残りの2人は同病院への寄付者と、Shift4 Paymentsのサービスのひとつ「Shift4Shop」を利用してビジネスを立ち上げた起業家の中から1人ずつ選ぶとしている。3人の氏名などの詳細は今年3月にも発表するという。
4人は、スペースXが開発したクルー・ドラゴン宇宙船に搭乗。打ち上げは2021年の第4四半期以降の予定で、NASAケネディ宇宙センターから飛び立ち、軌道上に数日間滞在したのち、フロリダ沖に着水する計画となっている。
ミッション中には、地球の人口の90%以上の上空を通過することになる。また、国際宇宙ステーション(ISS)へのドッキングはせず、クルー・ドラゴンの内部のみで過ごす。
アイザックマン氏は「この個人的な、そして人生の夢を実現するうえで、私はこのミッションを指揮することの大きな責任を感じています。歴史的な旅が私たちを待っています。このミッションが、インスピレーションの力を強化し、地球上での驚異的な成果につながることを願っています」とコメントしている。
民間宇宙船による史上初の民間人だけの宇宙飛行
インスピレーション4の4人が搭乗するクルー・ドラゴン宇宙船は、国際宇宙ステーション(ISS)に宇宙飛行士を輸送することを第一の目的として開発。2020年5月には有人での試験飛行に、11月には野口聡一宇宙飛行士ら4人を乗せた打ち上げに成功し、本格的な運用が始まった。また今年の春以降には、星出彰彦宇宙飛行士ら4人を乗せた運用2号機の打ち上げも予定されている。
同社はまた、米国航空宇宙局(NASA)などの宇宙機関の宇宙飛行士だけでなく、民間人も搭乗できる宇宙船として設計、開発したとしており、このインスピレーション4・ミッションでその能力がついに発揮されることになる。
飛行中のクルー・ドラゴンは、スペースXのミッション・コントロール・センターの監視のもと、基本的には完全に自動で運用される。
また、4人の乗組員は、スペースXによるクルー・ドラゴンやファルコン9ロケット、軌道力学、無重力に関する学習のほか、緊急時に備えた訓練や、船内服(宇宙服)、ミッションのシミュレーションなどを受けることになる。
宇宙飛行に向けた一通りの訓練を受けることから、4人は「商業宇宙飛行士」とも呼ばれることになるが、NASAなどの宇宙機関が認める資格としての宇宙飛行士とは異なるため、インスピレーション4ミッションが実現すれば、史上初の民間人のみでの宇宙飛行となる。
なお、今回のミッションとは別に、今年1月26日には、米国の宇宙企業アクシアム・スペース(Axiom Space)が、クルー・ドラゴンを使った民間人4人によるISSへの滞在ミッションを実施すると発表。また、俳優のトム・クルーズ氏も映画撮影の一環として宇宙飛行を検討していると噂されており、有人宇宙飛行の商業化、宇宙旅行の本格化が着々と進みつつある。
参考文献
・SpaceX to Launch Inspiration4 Mission to Orbit - SpaceX - Updates
・Inspiration4 - Home
・SpaceX - Dragon