京都産業大学(京産大)は2月2日、2020年7月にカシオペア座で発見された新星「V1391 Cas」を調査した結果、可視光極大付近の低分散分光スペクトルから、世界2例目となる炭素分子および炭化と窒素が結合したシアンラジカル分子の同時検出に成功したと発表した。

同成果は、京産大 神山天文台の新井彰研究員、同・河北秀世天文台長(京産大理学部 宇宙物理・気象学科学科教授)、岡山県在住アマチュア天文家の藤井貢氏らの共同研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」に掲載された。

新星とは、太陽のような一般的な恒星と、そうした一般的な恒星が最期を迎えたあとの姿である白色矮星が非常に近い距離で互いに回り合う「近接連星系」で起きる恒星の爆発現象だ。それまでとても暗かったり、肉眼では見えなかったりしたような星が、突如増光して何等級も明るく輝くため、まるで新たな星が誕生したように見えることから新星と名付けられているが、実際には新たな星が誕生するわけではない。

新星が爆発を起こす仕組みは、白色矮星が相方の恒星からガスを剥ぎ取って自身に降り積もらせるところから始まる。そしてガスが一定量を超えると、白色矮星の表面で「熱核暴走反応」と呼ばれる核融合の暴走が起きて大爆発に至り、白色矮星の一部とともに降り積もったガスが吹き飛ばされる。そしてガスは巨大な火の玉のように膨れ上がっていき、宇宙へと拡散していく。

なお、新星と同じ白色矮星と一般的な 恒星の連星系が起こす爆発現象に「Ia型超新星」がある。その違いは、新星で吹き飛ぶのは白色矮星の一部とガスであり、ガスが降り積もり続ければ何度でも爆発を起こす星もあるが、Ia型超新星は白色矮星そのものが吹き飛ぶため、その1回のみという差がある。

新星に話を戻すと、膨れ上がるガスの火の玉の表面温度は、爆発した瞬間は10万度を超える。しかし膨張するにつれて温度が下がり、新星が最も明るく輝く頃になると1万℃程度にまで下がる。これが一般的な新星爆発だが、中には通常よりも大きく膨らんでさらに温度が下がってしまう特殊な新星も存在する。

そのような特殊な新星を世界で初めて発見したのが、京産大の長島雅佳大学院生(当時)と梶川智代大学院生(当時)のふたりで、2013年のことだった。ふたりはこのときに、炭素分子(C2)と、炭素原子と窒素原子が結合したシアンラジカル分子(CN)を見出し、新星爆発の最中にそれらが生成されることも世界で初めて確認。これらの分子は約5000度を下回らないと生成されないため、温度がとても下がる非常に特殊な新星であることが確認されたのである。

  • 新星爆発

    C2とCNの両分子が同時検出された新星「V1391 Cas」のスペクトルの時間変化。等級(全体の明るさ)や見られる成分(明るい部分や黒い部分の位置や強度)が日ごとに変化しているのがわかる。2020年8月12日の黄色い矢印の部分にC2分子による吸収線(黒くなっている)が確認された。この新星では、3日程度でC2分子やCN分子の兆候が消失してしまうことが判明した。(c) 京都産業大学 (出所:京産大 神山天文台Webサイト)

このときの発見は、C2とCNの両分子の発見、5000度ほどにまで低下する新星爆発のほかに、新星爆発で生成された分子の元素同位体について、その存在比率の分析が可能となったことも大きな成果だった。その結果として、我々の太陽系が、46億年よりも以前に起こった新星爆発の放出物を材料の一部として作られた可能性があることも明らかとなったのである。

  • 新星爆発

    新星爆発で生み出された物質が、星・惑星系の材料になるイメージ図。新星爆発では、今回発見されたC2やCN以外にもさまざまな分子が作られ、それらがもとになってできるダスト粒子(塵)が宇宙に撒き散らされる。こうした物質が、いずれ太陽系のような星・惑星系の材料の一部になったと考えられている (c) 京都産業大学/NASA/JPL-Caltech(出所:京産大 神山天文台Webサイト)

このようにC2とCNの分子が作られるほど低温となる新星は非常に重要な研究対象だが、非常に希であるため、2013年の発見以降、なかなか2例目の発見がなされてこなかった。そこで神山天文台では、2013年の発見をさらに発展させることを目的とし、2014年以降、2例目の検出を目指して世界各地の天文台やアマチュア天文家らと協力し、さまざまな新星の観測を実施することにしたのである。

なお、これまで2例目の観測がなされてこなかった理由には、C2とCNの両分子が1週間程度でその兆候が消え去ってしまうことも大きいという。つまり、せっかく検出できる新星が現れたとしても、神山天文台だけでは悪天候で観察できないうちに両分子の証拠が消えてしまうこともあったかもしれないということだ。

そうした中、2020年7月28日(日本時間)に、ロシア・Ka-Dar天文台のS.Korotkiy氏と、モスクワ大学のK.Sokolovsky氏により、カシオペア座において新星「V1391 Cas」が発見された。神山天文台では、その報をキャッチすると岡山県在住のアマチュア天文家の藤井氏と協同し、同新星の観測を開始。そして発見されてから約2週間後の8月12日に、C2およびCN分子の検出に成功したのである。

  • 新星爆発

    今回の研究で用いられ分光データを取得した藤井氏の私設天文台(藤井黒崎天文台)の反射式望遠鏡(口径40cm、F/10)と可視光低分散分光器 (出所:京産大 神山天文台Webサイト、画像提供:藤井貢氏)

その後も観察は続けられ、両分子が検出されてから消え去るまで3日間ほどだったことが確認された。この観測データを基にして、新星爆発で合成される炭素や窒素の同位体比を明らかにすることで、太陽系の作る原材料の謎に迫れるという。

近年、JAXA、NASA、ESAなど世界中の宇宙機関によりハッブル宇宙望遠鏡などの高性能な宇宙望遠鏡(天文観測衛星)が多数配備され、またすばる望遠鏡やアルマ望遠鏡など、地上の望遠鏡も大型化・高性能化・大規模化している。そうしたさまざまな望遠鏡を駆使して大規模な掃天観測プロジェクトなども実施されており、以前ほど、アマチュア天文家が新星や彗星、小惑星などを新たに発見できるチャンスが減ってしまったのは事実だ。

しかし、これだけの望遠鏡が宇宙や地上にあっても、宇宙の全方位を同時に観測することは不可能であり、アマチュア天文家の力は今もって重要である。今回も藤井氏の観測がなければ、貴重なデータの取得ができなかった可能性もあるだろう。

また神山天文台では、先輩たちが発見した世界初の成果を現役の学生たちが引き継ぎ、今回の観測データを加えて研究を進めているとしている。