東京農工大学(農工大)は1月25日、奄美大島において、絶滅危惧種「アマミハナサキガエル」の脚の長さと持久力が、侵略的外来種である「フイリマングース」によって、数十年の間に急速に発達し、その変化はフイリマングースを駆除してもすぐには戻らないことを明らかにしたと発表した。

同成果は、農工大の小峰浩隆特任助教(研究当時、現・国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所所属)らの研究チームによるもの。詳細は、国際誌「Biological Invasions」に掲載された。

  • アマミハナサキガエル

    (a)アマミハナサキガエル(撮影:小峰特任助教)、奄美大島および徳之島の固有種。環境省のレッドリスト絶滅危惧種II類、県の天然記念物に指定されている希少種。(b)フイリマングース(撮影:小原祐二氏)、南アジア原産。世界各地に導入され、在来の生態系に深刻な影響を与えている。世界の侵略的外来生物ワースト100に指定 (出所:農工大プレスリリースPDF)

もともと強力な捕食者がいない島の在来種は、“逃げる”ということをあまり行わない。そのため、外来の捕食者が侵入してきた場合、簡単に食べられてしまう危険性がある。しかし、そうした中にも逃げ延びる能力の高い個体もいて、それらの個体は子孫を残せる確率が高くなる。つまり、逃げるという能力が次世代に受け継がれていく可能性があることを意味する。まさにダーウィンの進化論がいうところの適者生存である。

このことから、外来捕食者の強い影響を受けた島の在来種は、新たな捕食者に応じた逃避能力を発達させることが予想されるという。しかしこれまでは、新たな外来の捕食者に対して在来種がどのように応答しているのか、その詳細は知られていなかった。小峰特任助教らの研究が国内で本格的なそうした調査の初めてのものであり、2019年9月には、フイリマングース(マングース)の影響を受けたアマミハナサキカエル(カエル)に関する報告の第1弾として、逃避行動が急速に発達したことを発表している。

マングースが奄美大島に導入されたのはおよそ40年ほど前の1979年のこと。生息域が島全域に拡大することはなかったものの、導入地点に近い地域では多くの在来種を減少させた。その後、環境省の駆除活動によってほとんどのマングースは駆除されたが、もし在来種の逃避能力がマングースの捕食圧によって進化したのであれば、マングースがいなくなっても、その変化が持続していることが予想されるという。

また、奄美大島には在来の捕食者としてヘビ類がいる。ヘビ類は待ち伏せ型の捕食者だが、マングースは追跡型の捕食者だ。ヘビ類などの待ち伏せ型の捕食者から逃げるためには瞬発力があれば十分だが、マングースなどの追跡型の捕食者から逃げるためには、逃げ続ける能力、つまり持久力が必要であると考えられる。

そこで小峰特任助教らの研究チームは、この捕食者タイプの変化に在来種のカエルがどのように応答しているのか、2015年と2016年の6~8月に現地調査を実施。マングースの影響が異なる地域において、カエルの逃避に関わる脚の長さや、持久力の指標となるジャンプ可能回数などの計測が実施された。脚の長さはノギスを用いて計測され、ジャンプ可能回数は、手持ち網の中で何回までジャンプを繰り返すことができるのか、その上限が計測された。

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    研究の概要図 (出所:農工大プレスリリースPDF)

その結果、マングースの影響が強かった地域のカエルは、ほかの地域と比べて、相対的に脚の長さが長く、ジャンプ可能回数が多いことも明らかとなった。これは、マングースという追跡型の捕食者に応答し、わずか数十年の間にカエルの形態や持久力が発達したことを示しているという。

  • アマミハナサキガエル

    形態・持久力とマングースの影響(マングース導入地点からの距離)との関係図。マングースの影響が強かった地域では、形態・持久力が発達していることが明らかとなった (出所:農工大プレスリリースPDF)

またこの調査を行った時点では、環境省によってほとんどのマングースが駆除されている。このことから、マングースがいなくなっても、一度発達した形態や持久力はすぐには戻らないことが示された。これは、マングースによってカエルの形態や持久力がわずかな時間で急速に進化し、世代を超えて受け継がれた可能性を示す結果だとする。つまり、外来種は、“逃避能力が低い”という島嶼生物ならではの性質を、短期間のうちに変化させていることが明らかになったのである。

  • アマミハナサキガエル

    マングース導入前後の捕食-被食関係と逃避戦略の変化 (出所:農工大プレスリリースPDF)

外来種による在来種の減少についてはとても多くの報告があり、大きな問題となっている。ただし、形態や運動機能といった性質への影響は解明が始まったばかりだ。この性質の変化という観点で外来種と在来種の関係を見てみると、ほかの多くの生物でこれまで知られていなかった影響が明らかになる可能性があるという。たとえば、外来種と問題なく共存しているように見える在来種も、実際は、本来持つさまざまな性質が外来種によって変化していることもあり得る。

また、外来種を駆除することで数が回復した在来種も、その性質は本来持っていた性質とは異なることも考えられる。とりわけ、これまで多くの島嶼生物が外来種によって絶滅してきたことが知られているが、たとえ絶滅に至っていない場合でも、本来の性質が変化している可能性があるという。

島嶼生物の性質は、強力な捕食者がいないという特殊な環境で独自に進化してきた歴史を反映している。小峰特任助教らは、進化の独自性を反映する性質への影響を評価することで、外来種による在来種への影響の実態や根深さが、明らかになると期待されるとしている。