イノベーション創出に向けた新オフィス

アジレント・テクノロジーにてICP-MSの研究、開発、マーケティングなどを担当するアジレント・テクノロジー・インターナショナル事業本部は1月8日、同社本社・八王子事業所内に新オフィスを1月12日より開設することを明らかにした。

  • アジレント

    新オフィスのイメージ (提供:アジレント)

新オフィスは、社内のICP-MSに関わる従業員数が増加し、別々のオフィスで仕事をする状況となっていたものを1か所に集約する必要があったこと、そして建屋の老朽化(対象となった建物は1984年竣工)もあり、2018年春にリノベーションに向けたプロジェクトが社内でスタートしたことに端を発する。

プロジェクトでは、「働きがいのある職場の実現を目指す」ことをテーマに従業員より、働く場所を自由に改装できるとしたら、どういったものが良いか、といった約300件の従業員の声を収集。それをプロジェクトチームが優先順位付けを行い、2019年に実際のオフィスの全面改装が決定、リノベーションに向けた作業が進められてきた。

プロジェクトチームリーダーで、アジレント・テクノロジー・インターナショナル事業本部の持田いずみ氏は「働く人にとって良いオフィスを目指した」とその方向性を語る。その実現に向けた課題とされたのが、従来のオフィスではコミュニケーションがとりづらい、という声と、個人のスペースを減らしたくない、というニーズの両立。さまざまな議論のすえ、部署間のコミュニケーションをもっとも重視する形で、従来のパーティションで区切るくの字型デスクから、I字型デスクへの変更をしつつ、1人あたりのスペースを横2.4m、縦1.5mほど確保することで見通しをよくしつつ、個人のスペースも確保することに成功した。

「これにより、より豊かなコミュニケーションが可能となり、生産性を高める仕事のやり方の促進が図れるようになる」と持田氏はその効果に期待を寄せる。

また、従来のオフィスには暗いイメージがあったということで、明るい色を全体的に採用。オフィスフロアは中央部に従業員のデスクが置かれ、西側に会議室エリア、東側とデスクエリアの南側の一部にオープンスペースエリアをそれぞれ配置する構成となっているが、デスクエリアには白を基調にブルー系の挿し色を、西側のオープンエリアにはリラックス・緩和をイメージして木目調を、会議室には活発・イノベーションをテーマに赤やオレンジなど暖色系の挿し色を採用するなど、白一色ではなくなるよう工夫を施している。

  • アジレント

    新オフィスのゾーニングプラン (撮影協力:アジレント)

こうした取り組みの背景には、事業部門全体としてコミュニケーションを活性化させることで、イノベーションの創出を図りたいという思いがある。その核となるのがオープンスペースで、業務に関する打ち合わせはもちろんのこと、休憩スペースとして事業部内の人がふと立ち寄って、「普段話さない人との何気ない会話から、思いがけないアイデアが生み出され、それがイノベーションにつながることを期待したい」(持田氏)とする。

  • アジレント
  • アジレント
  • アジレント
  • アジレント
  • アジレント
  • アジレント
  • オープンスペースの様子。棚にはまだ何も置かれてないが、将来的にはアジレントのICP-MSに関するものを展示したり、これまでの貴重な資料を配したり、といったことを考えているという (撮影協力:アジレント)

  • アジレント
  • アジレント
  • デスクエリア内に設置されたオープンスペースはガラス張りで中の様子が見えるようになっている。また、デスクエリアにはフリースペースも用意。晴れた日には富士山が見える絶好の見晴らしのもと、仕事ができる (撮影協力:アジレント)

オフィスのデザインに盛り込まれた「らしさ」

また、オフィスをデザインするにあたって、プロジェクトチームは「アジレントらしさ、事業本部らしさ」を出すことも検討してきた。そのため、専門家チームと一緒に、ブランディングテーマとして、従業員の声にもあった文化、信念・価値観を含める形で、それを具現化している。

  • アジレント

    エレベータを出てすぐの壁には、ここが何の仕事をしているのか、を示す看板が設置されている。ちなみに「Atomic Spectrometry Innovation Center」の略称はないとのこと。頭文字をとればASICとなるが、それだと半導体になってしまうとのことで、少なくとも頭文字を並べる略称は使われないようである(アジレントはもともと半導体そのものも手掛けていたが、現在はAvago Technologiesとして独立している) (撮影協力:アジレント)

例えば各エリアに入る前の廊下には、事業本部がこれまで取り組んできたICP-MSの製品や技術に関するパネルが設置されているほか、会議室エリア側の壁には同社の分化である「Speed」「Focus」「Accountability」、そして大元であるヒューレット・パッカード(HP)時代からの「Innovation and Contribution」、「Trust、Respect and Teamwork」、「Uncompromising Integrity」といったパネルが設置されている。

  • アジレント
  • アジレント
  • アジレント
  • 廊下に展示されているのは、これまでの自分たちの成果であるICP-MSの製品や技術の説明パネル (撮影協力:アジレント)

  • アジレント
  • アジレント
  • 会議室前にはHP時代からのものを含めたアジレントの文化を説明するパネルが飾られている (撮影協力:アジレント)

このほか、会議室のガラス壁やデスクエリアの柱に従業員の声を反映した自分たちの文化や信念・価値観に関するワードが記載されるなど、従業員自身がアジレントで働くことにプライドを持てるような工夫が盛り込まれている。

  • アジレント
  • アジレント
  • アジレント
  • 会議室は外から会議をしていることが分かるガラス張り。椅子に座ったときに人の顔などが見えなくなるように摺りガラスとなっており、そこに従業員たちの声から選ばれたキーワードが記載されている (撮影協力:アジレント)

壁として立ちはだかる新型コロナ

リノベーションを進めるにあたって空調性能を従来の2倍に向上させたり、海外オフィスとのやりとりのためのWeb会議システムや電話会議用パーソナルスペースの拡充なども実施、図らずもニューノーマルへの対応も図られる結果となったという。

  • アジレント
  • アジレント
  • アジレント
  • アジレント
  • オープンスペースの天井はスケルトン仕様となっている。また、パーソナルスペースなども用意されている (撮影協力:アジレント)

持田氏は、「オフィスが快適であることは働く人の安心につながり、それが業務効率の向上につながると思っている」と語っており、コロナ後の変化をにらみつつ、さらに新たなオフィスで何ができるのかを考えていくことで、より快適なオフィス環境を実現していきたいとする。

とはいえ、同社は現在、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受け、基本的な勤務体系を在宅勤務としており、特段の用事がない場合は出社をしないこととなっている。そのため、新オフィスの稼働は2021年1月12日からとされているのだが、実際に同社の従業員がこの新オフィスに集まって活発にコミュニケーションをしつつ仕事をする、ということはまだだいぶ先のことになりそうである。