アリアンスペースは4月18日、恒例となっている年次会見を開催、同社のステファン・イズラエルCEOが来日し、2018年の報告や、2019年以降の見通しなどについて語った。同社は2018年、11機のロケットを打ち上げ、すべて成功。2020年には次世代機の初打ち上げが予定されており、動向が注目されている。
同社は欧州のロケット運用企業。現在、大型の「アリアン5」、中型の「ソユーズ」、小型の「ヴェガ」という3種類のロケットを運用中で、南米・ギアナ宇宙センターとカザフスタン・バイコヌール宇宙基地より打ち上げを行っている。2018年は11機の打ち上げを実施し、売上高は13億ユーロだった。
11機の内訳は、アリアン5が6機、ソユーズが3機、ヴェガが2機で、9月には、アリアン5の記念すべき100回目の打ち上げも行われた。これらのロケットで軌道に投入された衛星は合計21機。そのうち8機は静止通信衛星となっており、依然としてこの市場で高い競争力を維持していることが分かる。
また昨年実施された6回のアリアン5の打ち上げの内、3機は日本関連だった。4月の「DSN-1/Superbird-8」(防衛省/スカパーJSAT)、9月の「Horizons 3e」(スカパーJSAT/インテルサット)、10月の「BepiColombo」(ESA/JAXA)と続き、イズラエルCEOは「2018年はJapan Yearだった」と振り返った。
同社は商用静止衛星の打ち上げで高いシェアを持つが、日本市場では75%と突出している。同社東京事務所の高松聖司代表は、「日本では欧州の宇宙企業の存在感は薄いが、アリアンスペースは例外的に日本で成功した企業」だとアピール。その理由については、「長い目でパートナーシップを重視していたから」だと述べる。
「日本にオフィスを置くのは、単に打ち上げ契約を獲得するためではない。日本で活動している宇宙業界の皆様とのパートナーシップを結んで、相互に発展していくことを重視してきた」と高松代表。衛星メーカーであるNECと三菱電機、H-IIA/Bロケットを運用している三菱重工業(MHI)との協力関係について言及した。
特徴的なのは、競合でもあるMHIとの協力だろう。高松代表は「ロケットが各国に対して負っている責任を考えると、単なるビジネスの勝ち負けではない。お互いの責任を果たしながら、商業分野で成功していく形を作ることが必要」とした上で、「さらにこうした協調を進めていきたい」と述べた。
なお日本の顧客はスカパーJSATと放送衛星システム(B-SAT)の2社だったが、今回、新たにスタートアップのSynspectiveが加わった。同日発表されたSynspectiveとの打ち上げ契約については別記事を参照して欲しいが、日本の衛星でヴェガを利用するのはこれが初めて、また静止衛星以外の打ち上げ契約も初だという。
さて、商業打ち上げ市場で大成功を収めたアリアン5ロケットであるが、今後、2020年には、後継機「アリアン6」が登場。同年にはヴェガの後継となる「ヴェガC」の初打ち上げも行われる予定で、欧州のロケットは新たな時代に突入する。
アリアン6には、ブースタが2本の62型と4本の64型があり、それぞれ静止トランスファー軌道(GTO)への打ち上げ能力は5トンと10.5トン。このヴェガC、アリアン62、アリアン64が、今後の新しいラインアップとなる。なおイズラエルCEOによれば、2023年までを移行期としており、その間は新旧ロケットが併存する形となるとのこと。
まだ初フライト前であるものの、すでにアリアン62は4機、アリアン64は2機、ヴェガCは4機の打ち上げ契約を獲得しており、出足は良好。中でも、アリアン62の初飛行が米国のスタートアップ企業・ワンウェブ(OneWeb)の衛星コンステレーションになるというのは、新時代のロケットとして象徴的と言えるかもしれない。
ワンウェブは小型衛星を低軌道に大量に投入することで、全世界に通信サービスを提供する計画。今後、こうした小型衛星によるコンステレーションは増加するとみられ、アリアン6では「Small Satellites Mission Service」(SSMS)を用意し、これに対応する。ワンウェブの衛星は、62型だと最大36機、64型だと同78機を搭載することが可能だという。
そしてイズラエルCEOは最後に、その先の開発計画についても紹介した。欧州が将来のイノベーション技術として開発を進めているのは、低コストエンジン「プロメテウス」(Prometheus)、再使用ロケット「カリスト」(Callisto)と「テミス」(Themis)、軽量な上段ロケット「イカロス」(Icarus)など。
大型ロケットでは、米国のSpaceXが「ファルコン9」で再使用の実績を着実に積み上げており、どこまで低価格にできるのかが注目されている。欧州も、これらの技術について研究開発は進めているものの、アリアンスペースは以前から、ロケットの再使用については懐疑的な姿勢を取っていた。
イズラエルCEOは今回の会見で、「再使用については慎重な評価が必要」とコメント。「年間10機のロケットを打ち上げる場合、再使用だと年に1回しかロケットやエンジンを作れない。それだと工場や技術者を維持できず、信頼性に悪影響を及ぼす恐れがある」として、改めて慎重な見方を示した。