米宇宙企業スペースXは2020年12月7日、新型の無人補給船「カーゴドラゴン」を搭載したファルコン9ロケットの打ち上げに成功した。7日には国際宇宙ステーション(ISS)とのドッキングにも成功し、補給物資や科学機器などを送り届けた。

カーゴドラゴンは、従来のドラゴン補給船から大きく進化し、ISSへの補給能力が向上。宇宙飛行士を乗せる「クルー・ドラゴン」とともに、ISSの運用を支えていく予定となっている。

  • カーゴドラゴン

    カーゴドラゴンCRS-21を搭載した、ファルコン9ロケットの打ち上げ (C) SpaceX

カーゴドラゴンCRS-21の打ち上げ

カーゴドラゴン補給船は日本時間12月7日1時17分(米東部標準時6日11時17分)、米国フロリダ州にあるNASAケネディ宇宙センターから離昇した。

補給船を載せたロケットは順調に飛行し、打ち上げから約11分後にカーゴドラゴンを分離。その後、カーゴドラゴンは単独で飛行し、打ち上げから約26時間後の8日3時40分、自動でISSにドッキングした。

なお、ISSにはすでに、野口聡一宇宙飛行士ら4人の宇宙飛行士が乗ってきたクルー・ドラゴン「レジリエンス」がドッキングしており、史上初めてスペースXの宇宙機が2機、ISSに係留された。

今後、ISSに滞在している野口氏ら7人の宇宙飛行士によって、貨物の取り出し作業が行われる。

このミッションは「CRS-21」と呼ばれ、スペースXがNASAと結んだ契約に基づく「商業補給サービス(CRS)」の一環として行われており、通算で21回目のミッションとなる。

カーゴドラゴンには、約2900kgの補給物資が搭載。食料などの生活必需品のほか、クリスマスに向けて七面鳥やクッキーなども搭載されている。

また、ISSで行う科学実験の機器として、微生物を使って岩石から金属・鉱物を採掘する技術の実験機器や、3Dプリンターで作った心臓組織が宇宙でどう変化するかを調べる実験機器、宇宙で白血球の数を調べる装置、微小重力下でろう付けする技術の実験機器なども搭載している。

さらに、機体後部のトランク部分には、超小型衛星を放出するための「ビショップ(Bishop)」と呼ばれるエアロックも搭載。米国の民間企業ナノラックス(Nanoracks)が運用するもので、今後ISSのロボット・アームで取り出され、トランクウィリティ・モジュールに設置される予定となっている。

カーゴドラゴンはISSに約1か月間係留され、ISSの実験で生み出された成果物などを載せ分離。フロリダ沖の大西洋上に着水、帰還する予定となっている。

  • カーゴドラゴン

    カーゴドラゴンのトランク部に搭載された、ナノラックスのエアロック「ビショップ」(中央の銀色の物体) (C) SpaceX

カーゴドラゴンとは?

カーゴドラゴン(Cargo Dragon)はスペースXが開発した無人補給船で、ISSへ補給物資を運び、またISSで生み出された成果物などを地球に持ち帰ることをミッションとしている。

スペースXは2000年代の後半に、初代の「ドラゴン」補給船を開発。2010年から試験飛行を行い、そして2012年からNASAとの契約に基づく、商業補給サービス(CRS)ミッションを行っている。このドラゴンは約2000kgの補給物資を搭載することができ、また与圧貨物を搭載できるカプセル部分は3回の再使用を可能としていた。2020年3月までに14機が製造され、23回打ち上げられている。

その一方でスペースXは、2010年代に宇宙飛行士が乗れる有人宇宙船「クルー・ドラゴン」も開発。2020年5月には有人での試験飛行に成功し、そして11月には運用段階に入り、野口聡一宇宙飛行士らを乗せて打ち上げに成功している。

同社はまた、このクルー・ドラゴンの機体を補給船にする計画も進め、その結果カーゴドラゴンが生み出された。基本的な設計はクルー・ドラゴンと同じで、直径は4m、全長は8.1mで、機体の前半分は大気圏再突入能力をもったカプセル部、後ろ半分は使い捨てのトランク部と分かれている点、カプセル部の再使用ができる点なども同じであり、いわば「宇宙飛行士が乗っていないクルー・ドラゴン」である。

ただ、緊急脱出時に使うスラスターや、座席やコックピット、生命維持装置など、無人の補給船には不要な装備はすべて取り外されており、その代わりに補給物資を載せるためのラックや、冷却状態で輸送する必要がある実験サンプルなどを入れるための冷凍庫などが追加されている。

  • カーゴドラゴン

    カーゴドラゴンの外観。基本的な姿かたちは有人宇宙船クルー・ドラゴンと同じだが、脱出用のスラスターなどが取り外されている (C) SpaceX

これにより、搭載できる貨物量は、初代ドラゴンに比べ約20%ほど増加。研究サンプルなどを収容するロッカーの容量は2倍に増え、またISSとのドッキング中は、カーゴドラゴンの船内を宇宙実験室としても利用できるようになっている。さらに、カプセル部分の再使用可能な回数も、従来の3回から5回にまで増加。ISSとドッキング可能期間も、2倍以上となる最大75日間にまで伸びている。

また、従来のドラゴンは日本の宇宙ステーション補給機「こうのとり」などと同じく、ISSとランデヴーしたのち、宇宙飛行士がロボット・アームを使って捕獲しなければならなかったが、カーゴドラゴンは完全自動でドッキングすることができる。

さらに、初代ドラゴンでは太陽電池パドルにカバーがあり、軌道に乗ったあとに投棄するため宇宙ごみ(スペース・デブリ)となっていたが、カーゴドラゴンではクルー・ドラゴンと同じくトランク部の表面に貼り付ける形式のため、デブリが発生しない。また、ドッキング機構を保護するノーズコーンも、これまでは打ち上げ中に分離して太平洋上に捨てていたが、開閉式となったことでごみの発生を抑えている。

くわえて、従来はバハ・カリフォルニアの西の太平洋に着水していたが、カーゴドラゴンではフロリダ沖の大西洋上に着水する。これにより、ISSから持ち帰ってきた実験サンプルなどをケネディ宇宙センターに輸送する時間が、従来の数日から数時間へと大幅に短縮することができる。

その一方で、ドッキング・ポートの直径は小さくなっており、従来のドラゴンで運んでいたような大型の物資や機材などが運べなくなっている。ただ、ノースロップ・グラマンの「シグナス」補給船であれば大型物資や機材を運べるため、ISSの運用に影響はない。

カーゴドラゴンとクルー・ドラゴンは基本的には同型の機体であるため、たとえばクルー・ドラゴンとして宇宙飛行士を乗せて飛行した機体を、カーゴドラゴンに転用することも可能とされる。ただしその逆については考えられていないようである。また、今後の具体的な飛行、再使用の計画は、現時点では明らかになっていない。

なお、今回のCRS-21ミッションでは、「C208」というシリアルナンバーが付けられた、新規に製造された機体が用いられている。

現在のスペースXとNASAとの契約では、カーゴドラゴンによる補給ミッションは、今回を含め計9回行われることになっている。現時点でISSは2024年ごろまで運用される予定だが、民間に運用を譲渡するなどして延長することが検討されており、その場合は新たな契約の下で、カーゴドラゴンによる補給が続けられる可能性もある。

  • カーゴドラゴン

    カーゴドラゴンの船内。有人宇宙船クルー・ドラゴンから、座席やコックピットなどが取り外されている (C) SpaceX

参考文献

CRS-21 Mission - SpaceX - Updates
NASA Science, New Airlock Heads to Space Station on SpaceX Cargo Craft | NASA
SpaceX - Dragon
Bishop Airlock Takes Flight, Headed to ISS on SpaceX-21 Launch
Space Station - Off The Earth, For The Earth