2020年12月5日14時30分(日本時間)、小惑星探査機「はやぶさ2」は小惑星「リュウグウ」にて採取したサンプルが入っていると思われる再突入カプセルの分離を実施。カプセルは無事、地球帰還の軌道に乗り、一方のはやぶさ2本体は、再び地球を離れ、新たな目的地に向かう旅路についた。

はやぶさ2の運用管理室ではカプセルの分離が確認されると、プロジェクトチームのメンバーたちから自然と拍手が沸き起こり、各所でガッツポーズが見られるなど、その成功をかみしめている様子が見られた。

  • TCM-5成功

    2020年12月5日16時30分、TCM-5の成功を確認し、喜ぶプロジェクトメンバー (C)JAXAイベントライブ配信専用チャンネル

はやぶさから受け継がれた意思

はやぶさ2は、世界初の小惑星サンプルリターンに成功した探査機「はやぶさ」の後を継いだ探査機で、基本的な設計ははやぶさ(初号機)と同じながら、「はやぶさで経験したことをすべてはやぶさ2で活かす」と津田雄一プロジェクトマネージャーが語るように、はやぶさで得られた知見をもとにさまざまな改良が施された。

そのミッションの目的は水や有機物の存在が期待できるC型の小惑星「リュウグウ」の砂などの試料を持ち帰る事で、その過程でリュウグウへの着陸(タッチダウン)や探査ローバーの展開などさまざまな挑戦が行われることとなった。

「牙をむいた」リュウグウ

2014年12月3日の打ち上げからリュウグウ到着となる2018年6月27日までは大きなトラブルもなくほぼスケジュール通りに進んだはやぶさ2であったが、リュウグウに近づくにつれ、その観測結果から、よくわかっていなかったその姿が徐々に明らかとなっていき、結果として、当初の計画の見直しを余儀なくされた。

  • リュウグウ表面画像

    2018年9月23日10時10分ころRover-1Bが撮影したリュウグウの表面画像 (C)JAXA

最大の問題となったのは、リュウグウの表面に予想以上に平地がなかったという点であった。当初、プロジェクトチームでは、小さい天体ということもあり地表には礫などを含めた凹凸はそこまで多くないと予想しており、半径50m(直径100m)の平坦な領域を探して、そこに着陸することを想定していた。しかし、実際には、大き目の礫が各所に点在、当初の想定の通りにタッチダウンできる場所は見当たらなかった。

そのため当初の計画では、2018年10月後半に1回目のタッチダウンに挑む予定であったが、着陸ポイントの選出に慎重な判断が必要となり、実施の時期を後ろ倒しすることを決定。詳細なデータを元にした検討の結果、下されたのは当初の直径100mの領域への着陸ではなく、直径6mの円内への着陸に挑むという決定であった。

その難しさを津田プロジェクトマネージャーは「もともとは甲子園球場に降りようと思っていたのに、マウンドを狙わないといけなくなった」と表現したが、プロジェクトチームの奮闘により2019年2月22日、はやぶさ2は見事、1回目のタッチダウンを成功させる。

成功の要因について同氏は1回目のタッチダウン成功後の会見で「ターゲットマーカーによる着陸方式という、初号機が生み出した技術があったから実現できた。これは日本独自の技術で、発想の凄さを実感している」と述べ、はやぶさという先人があったからこその成功であることを強調した。

困難を乗り越え成し遂げた7つの世界初の偉業

はやぶさから受け継がれた技術を活用することで、1回目のタッチダウン後も着々とミッションをこなしたはやぶさ2は、最終的には以下に示す7つの世界初のミッションを成し遂げることとなる。

  1. 小型探査ロボットによる小天体表面の移動探査
  2. 複数の探査ロボットの小天体への投下・展開
  3. 天体着陸精度60cmの実現
  4. 人工クレーター作成とその過程・前後の状態を詳細観測
  5. 同一天体の2地点への着陸
  6. 地球圏外の天体の地下物質へのアクセス
  7. 最小・複数の小天体周回人工衛星の実現

これらのミッション成功は、今後のサンプルリターンミッションでの技術に継承され、日本の小惑星探査を進化させるだけでなく、採取した地下物資からリュウグウの起源、ひいては地球の起源への研究につながっていくことが期待される。

  • サンプル

    2020年12月6日2時30分に撮影された、リュウグウのサンプルが入っているとみられるカプセルが大気圏に突入した際の火球カラー画像 (C)JAXA

なお、リュウグウで得たサンプルを地球へと送り届けたはやぶさ2は、プロジェクトチームの的確な運用のおかげで、燃料が十分に残っており、新たなミッションが与えられることとなった。その新たな目的地となる小惑星「1998 KY26」への到着は2031年7月予定と、かなり先だが、その前に小惑星「2001 CC21」のフライバイを2026年7月に実施する予定である。

働きもののはやぶさ2にとって地球帰還は旅の終わりではない。一度、無事に帰ってきたのだから、単純におかえりなさい、と言ってあげても良いのかもしれない。だが、その元気いっぱいの体は、またすぐに新しい旅に出ることが決まっている。だから、今は、おかえりなさい、そして、行ってらっしゃい、と言ってあげるべきだろう。まだまだはやぶさ2の冒険は終わらない。本当の意味でお疲れ様と、言ってあげられるのは、もう少し先のことになりそうだ。

はやぶさ2のこれまでの軌跡

  • 2014年12月3日:打ち上げ
  • 2015年12月3日:地球スイングバイ成功
  • 2018年6月27日:リュウグウ到着
  • 2018年9月21日:小型探査ローバー「MINERVA-II-1」分離成功
  • 2018年10月3日:小型着陸機「MASCOT」分離成功
  • 2019年2月22日:リュウグウへの1回目のタッチダウンに成功
  • 2019年4月5日:人工クレーターの生成に成功
  • 2019年7月11日:リュウグウへの2回目のタッチダウン(人工クレーター)に成功
  • 2019年10月3日:小型探査ローバー「MINERVA-II-2」分離成功
  • 2019年11月3日:リュウグウを出発し地球への帰還を開始
  • 2020年12月5日14時30分:カプセルの分離に成功
  • 同15時30分:地球圏離脱の軌道修正(TCM-5)に成功
  • 2020年12月6日2時28分:カプセルの大気圏突入を伴う火球を確認
  • 同3時7分:カプセルに取り付けられたビーコンから着地地点を特定
  • 同4時47分:着地予定区域内においてカプセルを発見
  • 同6時23分:カプセルの回収作業を着地地点にて開始