野口聡一宇宙飛行士ら4人を乗せた、米スペースXの宇宙船「クルードラゴン」Crew-1 レジリエンスが、2020年11月17日13時1分(日本時間)、国際宇宙ステーション(ISS)とのドッキングに成功した。
昨日の打ち上げ後、レジリエンスには一時トラブルが発生し、ミッション継続が危ぶまれたときもあったが、無事に解決。その後は順調に飛行した。
野口宇宙飛行士らは、すでにISSに滞在していた3人の宇宙飛行士とともに7人体制で、約半年間の長期滞在ミッションに挑む。
レジリエンスCrew-1のミッション1日目
クルードラゴン「レジリエンス」Crew-1を載せた「ファルコン9」ロケットは、日本時間11月16日9時27分(米東部標準時15日19時27分)、米フロリダ州にあるNASAケネディ宇宙センターの第39A発射施設から離昇した。
Crew-1には、NASA宇宙飛行士のマイケル・ホプキンス氏、ヴィクター・グローヴァー氏、シャノン・ウォーカー氏、そして日本のJAXA宇宙飛行士の野口聡一宇宙飛行士の計4人が搭乗していた。このうちホプキンス宇宙飛行士は船長を、グローヴァー宇宙飛行士はパイロットを、そしてウォーカー宇宙飛行士と野口宇宙飛行士はミッション・スペシャリストを務めた。
ロケットは順調に飛行し、打ち上げから約12分後にレジリエンスを分離。計画どおりの軌道へ投入した。
その後、レジリエンスにはいくつかの問題が発生した。ひとつは通信系のトラブルで、地上側が原因だったとされ、すぐに解決した。また、宇宙飛行士が乗っているクルー・カプセル部分の冷却システムに圧力スパイク(急激な圧力上昇)が確認されるという問題も起きたが、その後地上からの指令により、機能を回復した。
さらに、姿勢制御や軌道変更に使う「ドレイコー」と呼ばれるスラスターの、推進剤の配管を保温するためのヒーターの4つのうち3つに問題が発生。ヒーターの抵抗値が制限値を上回っていたためで、コンピューターが自動的に機能を停止させたという。飛行規則では、4つのヒーターのうち少なくとも2つが正常に作動していることが要求されており、このままではミッションを中断しなければならない可能性もあった。
その後、地上の運用チームの調査により、ソフトウェアに書き込まれていた制限値の設定が過度に保守的すぎたために起きたものと特定され、一旦3つのヒーターの電源を落とし、ソフトウェアを修正して抵抗値の制限を緩和したあと、再起動を実施。その結果、4つのヒーターすべてが正常に作動するようになり、ミッション中断の危機は免れることになった。
これらの問題がすぐに解決し、その後レジリエンスは順調に飛行したこともあり、ミッション計画に大きな影響を与えることはなかった。
4人の宇宙飛行士はその後、18時10分ごろに就寝した。
飛行2日目:ドッキング成功
約8時間の睡眠後、4人の宇宙飛行士は17日2時10分ごろに起床した。ウェイク・アップ・コール(NASAの宇宙船で伝統的に流される目覚まし用の音楽)は、英国のミュージシャン、フィル・コリンズ氏の「In the Air Tonight」だった。
飛行2日目では、地上との交信イベントが行われ、野口宇宙飛行士らレジリエンスに搭乗している宇宙飛行士による自己紹介や、船内の紹介が行われた。
そして11時5分ごろ、ISSに接近するGo/No Go判断が行われ、Goの判断が下された。レジリエンスは2回に分けてスラスターを噴射し、徐々に接近を開始した。12時5分ごろには、ISSの真下に設定された「ウェイポイント0」と呼ばれる地点を通過。続いて、ドッキング予定のドッキング・ポート「IDA-2」の真正面から約220mの位置に設定された「ウェイポイント1」に向かって飛行した。
その後、12時39分ごろにウェイポイント1を通過。その後も順調に近づいていき、12時50分ごろには、ドッキング・ポートから約20m離れた「ウェイポイント2」に到達した。ここでレジリエンスは、相対速度を合わせて静止した状態になり、ドッキングのGo/No Go判断が行われた。
このとき、レジリエンスから見て、ISS側に太陽が見える状態にあったため、センサーがハレーションを起こしてドッキングのターゲットを捉えるのに支障が出る可能性があったことから、軌道上の日没を待つため約6分待機することになった。その後、正式にGo判断が下されファイナル・アプローチを開始。そして13時1分、秒速約10cmでIDA-2にドッキングした。接近からドッキングまでは完全に自動制御で行われた。
まずは、ドッキング機構が軽く噛み合った状態の「ソフト・キャプチャー」という状態にあり、続いてしっかりと固定する「ハード・キャプチャー」のための作業が実施され、13時13分に完了した。
そして、空気が漏れていないかなど入念に確認が行われたのち、15時3分にレジリエンスのハッチが開かれ、野口宇宙飛行士らCrew-1のクルーがISSに乗船。今年10月からISSに滞在しているクルーと対面を果たした。
今後のISSの運用
ISSには、10月にソユーズ宇宙船でやってきたロシアのセルゲイ・ルィジコフ宇宙飛行士とセルゲイ・クジ=スヴェルチコフ宇宙飛行士、米国のキャスリーン・ルビンス宇宙飛行士の3人が滞在しており、野口宇宙飛行士ら4人はこの3人と合流し、7人体制で第64次長期滞在ミッションが始まることになる。
これまでのISSの長期滞在ミッションは6人体制で行われており、過去にソユーズの到着時などに一時的に9人になったことはあるが、長期滞在ミッションそのものが7人体制で行われるのは史上最多となる。また、クルードラゴンが運用に入り、ボーイングが開発中の宇宙船「スターライナー」も2021年以降に運用に入る予定であることから、今後は7人体制が標準となり、従来よりさらに多くの宇宙実験などが行われることが期待される。
なお、現在ISSには、宇宙飛行士が眠る場所は6人分しかない。Crew-1のクルーが滞在中に、もう1人分の寝床が設けられる予定だが、それが完成するまでは、1人はレジリエンスで寝泊まりすることになる。
2021年4月以降には、ロシアのオレグ・ノヴィツキー宇宙飛行士、ピョートル・ドゥブロフ宇宙飛行士、セルゲイ・コルサコフ宇宙飛行士の3人を乗せた「ソユーズMS-18」がISSに到着する。それと入れ替わりにルィジコフ宇宙飛行士らが地球に帰還し、残った野口宇宙飛行士らと合わせた7人で第65次長期滞在が行われる。
その後、6月中旬以降にはクルードラゴンの運用2号機「Crew-2」が打ち上げられ、ISSに到着する予定となっている。Crew-2には、シェーン・キンブロー宇宙飛行士(NASA)、メーガン・マッカーサー宇宙飛行士(NASA)、星出彰彦宇宙飛行士(JAXA)、トマ・ペスケ宇宙飛行士(ESA)の4人が搭乗する。
野口宇宙飛行士らCrew-1の4人は、Crew-2の到着と入れ替わる形で、6月下旬ごろにレジリエンスに乗って地球に帰還することになっている。
これらの飛行スケジュールはまだ正式に決定されていないため、時期などが変更される可能性はあるが、一時的にISSに最大10~11人が滞在することが見込まれる。なお、ソユーズがさらにもう1機やってくるなどし、一時的な滞在人数がさらに増えることも想定されるものの、JAXAによると「運用が難しくなるため現実的ではなく、それを避けるような飛行スケジュールにするのではないか」としている。
参考文献
・NASA’s SpaceX Crew-1 Mission
・Commercial Crew Program
・NASA’s SpaceX Crew-1 Astronauts Headed to International Space Station | NASA
・Crew Dragon Resilience successfully docks, expands ISS crew to seven - NASASpaceFlight.com
・SpaceX - Dragon