京都工芸繊維大学(京工大)は11月13日、約10兆分の1秒という極めて短い時間をスローモーションで観察できる超高速動画撮影装置の撮影時間を倍増させることに成功したと発表した。
同成果は、京工大電気電子工学系の粟辻安浩教授、同・澤島雄祐大学院生らの研究チームによるもの。詳細は、米国電気電子学会IEEEが出版する学術雑誌「IEEE Journal of Quantum Electronics」に掲載された。
フェムト秒(1000兆分の1秒)など、極めて短い時間だけ光を照射できる超短パルスレーザーは、最先端の自然科学、材料工学、情報通信、医療など幅広い分野での利用が急速に進んでいる。その技術をさらに発展させるため、レーザーから発せられた光が伝播する様子の観察・評価技術の確立が求められている。
しかし光は真空中を秒速約30万kmで進み、この世において最速であるため、その伝播は速すぎて直接見ることができない。世界最高速級の高速度カメラを用いても観察することは困難だ。そこで、もしそうした光を観察できるようになれば、技術の大きな進展につながる。超短パルスレーザーが出射する光パルスの伝播を動画でスローモーション撮影できれば、高性能光ファイバーによる光通信の大容量高速化、パルスレーザーの性質を利用した加工技術の高精度微細化、レーザーナノ手術の超高精度化など、さまざまなレーザー利用技術革新の基盤となるという。
そうした超短パルスレーザーと、光の3次元情報を記録・再生できる技術である「デジタルホログラフィー」を組み合わせて、光パルスの伝播をスローモーション動画で記録・観察できる技術について研究を行ってきたのが、粟辻教授が率いる研究チームだ。
デジタルホログラフィーとは、光の干渉と回折を利用して、物体からやってくる光のすべての情報を記録・再生できる3次元画像技術だ。物体を透過または物体で反射した光を「物体光」と、基準となる「参照光」を干渉させ、干渉した光の明るさの分布をCCDやCMOSイメージセンサーなどの撮像素子に干渉光画像(デジタルホログラム)を記録。そしてデジタルホログラムに対してコンピューターが数値計算を行い、物体の3次元像を再生するのである。これまでは、1台の撮像素子を用いて、光が伝播する情報を1点のデジタルホログラムとして記録し、動画として再生することで観察が行われていた。
しかし、この技術による光が伝播する様子を動画撮影する時間は、デジタルホログラムの記録に用いる撮像素子の横の長さにより制限されており、これまでその動画像の撮影時間を延長する方法は未報告だった。そうした中、研究チームは今回、撮影時間を倍増できる技術を提案。そして、その技術に基づく光学システムが構築された。
今回提案された新手法では、撮像素子の面積を効率的に利用するための新たな光学システムが採用されている。これまでは1台の撮像素子に1点のデジタルホログラムが記録されていたのに対し、新手法では1台の撮像素子に複数枚のデジタルホログラムが記録されるようになったことが大きく進展した部分だ。
これにより、従来法の制限が克服され、動画の撮影時間を延長することに成功。新手法では、1枚目に記録された光が伝播する続きの情報を2枚目のデジタルホログラムに記録するため、従来法で得られる動画の続きの動画を取得でき、光伝播のより長時間の観察が可能となった。
今回の研究では、2枚のデジタルホログラムを記録するために必要なふたつの参照光を生成するための光学システムを従来の光学システムに導入。さらに、撮像素子面の前に、隣り合う画素ごとに異なる光の振動方向である偏光を検出する微小偏光子アレイを配置した撮像素子が用いられた。これにより、複数枚のデジタルホログラムの記録が可能となったとする。
原理確認実験として、拡散テープを張り付けた定規上を伝播する超短光パルスの観察が行われた。定規の目盛りの変化から、より長時間の超短光パルスの伝播の様子の観察に成功。スローモーション動画の撮影時間を倍増できたことを定量的に確認したという。
今回の研究で提案・実証された技術は、これまでなら観察できなかった、より長時間の超短光パルスの伝播の様子の観察や、それに伴うフェムト秒領域のさまざまな超高速現象の動画観察を可能とするとした。これにより、たとえば光通信に用いられる高性能光電子素子の開発への貢献などが期待されるという。
さらに、同技術による超高速現象の動画観察により、たとえば、レーザー加工時に繰り広げられる超高速現象のメカニズムを解明する強力なツールとなり、微細加工の超高精度化への貢献も期待できるとした。