岡山大学は10月29日、米・小麦類の貯穀害虫である「コクヌストモドキ」に砂糖水に混ぜたカフェインを経口摂取させ、交尾行動と精子競争力を調べたところ、カフェインを飲んだオスは、飲んでいないオスに比べ、容器に入れてからメスに求愛するまでの時間とメスにマウントするまでの時間が短くなり、交尾器も早く突出させることが判明したと発表した。
同成果は、岡山大大学院環境生命科学研究科の大学院生、同農学部の学生、宮竹貴久教授らの研究チームによるもの。詳細は、国際雑誌「Ethology」に掲載された。
コクヌストモドキ(Tribolium castaneum)は、体長3~4mmほどのゴミムシダマシ科の小型甲虫だ。精米所や製粉所の穀類をエサとするため、害虫として知られている。宮武教授率いる研究チームはコクヌストモドキを長いこと研究対象としており、2010年には同昆虫にカフェインを飲ませると、死んだふりを早くやめるようになることを発見していた。
コクヌストモドキは長時間死んだふりをするのが特徴で、これまで宮武教授らは、同昆虫にカフェイン2010年に発見していた。カフェインはドーパミンのアクチベーターで、昆虫の動きに影響する可能性があることが、宮武教授らの見解だ。そこで今回の研究では、生物の「動き」を介して成立する交尾も、カフェインの影響を受けるだろうという仮説を立てて実証が行われた。
具体的には、2%と5%の濃度のカフェインをショ糖に混ぜた液体と、ショ糖のみの液体をそれぞれオスに飲ませ、メスを同居させてビデオを用いて交尾行動が観察された。その結果、カフェインを飲ませたオスは飲ませないオスに比べて、メスに求愛を開始するまでの時間、マウントを開始するまでの時間、および交尾器を突出させるまでの時間が有意に短くなったことが確認された。観察されたペア数はそれぞれ30で、30分間の観察が実施された。
また突然変異体の黒色ミュータント系統を使って、カフェインを飲ませたオスと飲ませていないオスを同一のメスと交尾させ、どちらのオスの精子が受精に使われたかも調べられた。すると、カフェインの摂取が精子の卵受精力に影響することはなかったという。ちなみに、通常のコクヌストモドキの体色は茶色だが、突然変異により生体の体色が黒い系統がいて、それが黒色ミュータント系統と呼ばれる。黒色の方が優性遺伝することから、今回の精子の卵受精力の比較において用いられた。
甲虫において、カフェインが交尾に及ぼす影響を明らかにした研究はこれが世界で初めてだという。今回の実験結果から、甲虫においては、コーヒーが精力剤として機能する可能性が示唆されるとした。農作物のカカオや茶に含まれるカフェインが自然の中で、どのような機能を持つかはまだわかっていない。昆虫に対する影響があることが判明したことから、植物がカフェインをなぜ進化させたのかについても示唆を与える可能性があるとしている。