岡山大学は8月27日、重い電子系の超伝導物質において、「局在-遍歴転移」の観測に成功し、この転移によって不純物散乱に強い超伝導が出現することを突き止めたと発表した。

同成果は、同大学大学院自然科学研究科(理)の鄭国慶 教授、川崎慎司 准教授らの研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Communications Physics」に掲載された。

セリウム(原子番号58:Ce)などの希土類元素を含む化合物に、「重い電子系」と呼ばれる超伝導物質群が存在する。重い電子系はCeの電子が局在(磁性)と遍歴(超伝導)というふたつの性質を持ち、それらは圧力を使って自由自在に制御できることから、実験する際の大きなメリットとなっている。

また、Ceの電子はCeイオンの位置に局在する性質が強く、電子スピンが互いの向きを逆さまにして並ぼうとする反強磁性の性質を備える。この状態で結晶を圧縮すると、Ceの電子と自由電子との重なりが大きくなり、遍歴性が増していく。その結果として、「重い電子」と呼ばれる状態が作り出されるのである。

それに伴い、「局在-遍歴転移」と呼ばれる「フェルミ面」(電子の運動によって決定される金属の固有の面のことで、結晶構造や電子数によって異なってくる)の大きさが変化し、それが超伝導のカギを握っているという。しかし観測がとても難しいため、どの時点で局在-遍歴転移が起こるのかは、これまでわかっていなかった。

研究チームは今回、典型的な重い電子系の反強磁性超伝導体である「CeRh0.5Ir0.5In5」において、極低温高圧下の「核四重極共鳴実験」を詳細に実施した。核四重極共鳴実験とは、原子核スピンを通して物質の電子状態を調べる実験手法のことだ。

その結果、圧力で反強磁性が消失する「量子臨界点」の前に、Ceの電子の局在-遍歴転移が起きていることが判明した。なお量子臨界点とは、絶対零度で反強磁性の転移温度がゼロになる圧力のことをいう。

さらに、超伝導について詳しく調べると、CeRh0.5Ir0.5In5においてRhをIrで元素置換したことによる「不純物散乱」の影響が顕著に表れているにもかかわらず、超伝導転移温度が想定よりも下がらないことが判明した。つまり、「不純物散乱に強い」ということがわかったのである。不純物散乱とは、簡単にいうと電気抵抗の原因となる現象のことだ。

そして、局在-遍歴転移と量子臨界点の協働により、これまでは理論的にのみ議論されていた「不純物散乱に強い超伝導」状態、より専門的にいうと「奇周波数p波超伝導」が出現していることも確認された。超伝導において電子は「クーパー対」と呼ばれる対を組むが、奇周波数p波超伝導とは、クーパー対の対称性のひとつのことである。超伝導の発現機構によってクーパー対の空間的および時間的対称性は変化するため、クーパー対の対称性を調べることが超伝導研究で最も重要とされている。

研究チームは、局在-遍歴転移の観測に成功した今回の成果に対し、重い電子系超伝導発現機構を分析する上での重要な手がかりが得られるとした。また、現在は大気圧下での超伝導が起きる温度は-100℃以下だが、室温超伝導などの高温超伝導物質を今後開発していく際にも活用されることを期待するとしている。

  • 岡山大学

    (左)CeRh0.5Ir0.5In5の結晶構造。(右)今回の研究で得られた圧力-温度相図。グラフの横軸中の磁気量子臨界点とは、絶対零度で反強磁性が消失する点を示す。今回の研究では、☆印の局在-遍歴転移線が新たに発見された。局在-遍歴転移は、磁気量子臨界点よりも前に生じることも確認された (出所:岡山大学プレスリリースPDF)