東北大学は8月20日、長時間のマスク着用などで生じる摩擦刺激によって、皮膚のバリア機能の喪失(脆弱化)が亢進する仕組みを力学的解析によって解明したと発表した。
同成果は、同大大学院工学研究科ファインメカニクス専攻の菊地謙次 准教授(医工学研究科兼任)、同大大学院工学研究科の重田峻輔 大学院生、同大医工学研究科の沼山恵子 准教授、同大工学研究科の石川拓司 教授らによるもの。詳細は学術誌「International Journal of Pharmaceutics」に掲載された。
皮膚には皮膚内の水分の蒸発を防ぐ機能があると同時に、外部からの薬剤や細菌、ウイルスの浸透を防ぐ「皮膚バリア機能」があることが知られている。また、長時間のマスク着用などによって生じる摩擦刺激を受けた皮膚では、、見た目には傷には見えない程度であってもそのバリア機能の喪失(脆弱化)が生じることも知られていたが、その仕組みについてはよく分かっていなかった。
今回、研究グループは独自開発の「非侵襲高速物質透過量計測法」を用いて、ヒト薬剤浸透モデル皮膚として用いられるユカタン子豚皮膚にさまざまな摩擦刺激を与え、皮膚の摩擦刺激に対する皮膚バリア機能の脆弱性について調査を行った。
その結果、皮膚表面に摩擦刺激を与えると皮膚最上層にある角質層の角化細胞に微小なひずみが生じることを発見。このひずみについて力学的解析を行ったところ、摩擦刺激が加わった皮膚では、摩擦力が増すごとにひずみが増し、角化細胞が摩擦方向に縮んで変形すること、ならびに角化細胞のひずみは時間とともに蓄積され、表皮細胞のアポトーシス後の角化細胞は自己修復しないこともあり、摩擦刺激によって皮膚バリア機能の脆弱化が時間とともに増加していくことを明らかにしたという。
今回の成果について研究グループでは、日々の新型コロナウイルス感染防止としてマスク着用やスポーツなどによる皮膚への外的な摩擦刺激によって、皮膚のバリア機能が失われていく可能性を示す重要な報告だとしており、長時間のマスク着用により脆弱化した皮膚にウイルスが付着することで、さまざまなウイルスの感染リスクが懸念されるようになるとコメントしている。
ただし、今回、脆弱化の仕組みが明らかになったことから、皮膚への摩擦刺激をコントロールすることが可能になれば、バリア機能が失われた皮膚からのさまざまなウイルス感染を抑止する新たな感染防止策の開発につながることも期待されるほか、薬剤の経皮吸収量の制御などによる新たな経皮療法の開発などにつながることが期待されるともしている。