米宇宙企業スペースXが開発した宇宙船「クルー・ドラゴン」が、2020年8月3日、地球に帰還した。
民間企業が開発した宇宙船が、宇宙飛行士を乗せて地球と宇宙を往復することに成功したのは史上初。これを受け、同社と米国航空宇宙局(NASA)は、今年10月23日からの実運用の開始を目指す。
また、今回帰還した機体は、来春の飛行で再使用される予定となっている。
クルー・ドラゴンDemo-2
クルー・ドラゴン(Crew Dragon)はスペースXが開発した有人宇宙船で、国際宇宙ステーション(ISS)に宇宙飛行士を運んだり、地球低軌道に民間の観光客を運んだりすることを目指している。
NASAは2006年から、ISSへの物資補給と宇宙飛行士の輸送を民間企業に委託する計画を進めてきた。スペースXはその計画に最初期から関わり、無人の「ドラゴン」補給船による物資補給ミッションを担い続けている。そして、そのノウハウをもとに、有人宇宙船であるクルー・ドラゴンが開発された。
クルー・ドラゴンは全長約8mで、宇宙飛行士が乗り込む「カプセル」と、太陽電池などが搭載されている「トランク」からなる。カプセルは大部分が再使用できるほか、高い安全性を目指して設計されており、さらにコクピットはタッチパネルが多用されているなど、新世代の宇宙船にふさわしい性能を兼ね備えている。
クルー・ドラゴンが完成し、運用が始まれば、2011年のスペース・シャトルの引退以来、約9年ぶりに米国の有人宇宙船が復活することになる。現在米国は、ISSへの往復でロシアの「ソユーズ」宇宙船に依存しており、米国にとって独自の有人宇宙船の復活は悲願でもある。NASAは現在、ロシアに対して、宇宙飛行士1人につき9000万ドルもの運賃を支払っているとされるが、クルー・ドラゴンでは1人あたり5500万ドルにまで下がるとされる。
クルー・ドラゴンの無人の試験機「Demo-1」は昨年3月2日、同社の「ファルコン9」ロケットで打ち上げられ、宇宙飛行や、ISSへのランデヴー、ドッキング技術を実証したのち、同8日に地球に帰還した。
そして今年5月31日には、ダグラス・ハーリー宇宙飛行士とロバート・ベンケン宇宙飛行士(ともにNASA)が搭乗したクルー・ドラゴンが、初の有人試験飛行「Demo-2」に出発。両宇宙飛行士によって「エンデバー(Endeavour)」と名付けられたこの機体は、大きなトラブルもなく、打ち上げから約19時間後にISSの「ハーモニー」モジュールへのドッキングに成功した。
2人の宇宙飛行士は、約2か月間、ISSの滞在員として実験やメンテナンス活動に従事。またベンケン宇宙飛行士は船外活動も行った。
そして8月2日、ISSから分離し帰路についた。3日3時ごろには、軌道離脱噴射を行い、大気圏へ再突入。続いてパラシュートを開いて、減速しながら降下した。そして日本時間8月3日3時48分、フロリダ州ペンサコーラ沖のメキシコ湾に着水した。
宇宙船と搭乗していたベンケン、ハーリー両宇宙飛行士は、海上で待機していたスペースXの船で回収。2人の宇宙飛行士は健康だという。
民間企業が開発した宇宙船が、宇宙飛行士を乗せて地球と宇宙を往復することに成功したのは史上初めてとなる。また、米国の地から有人宇宙船が打ち上げられたのは、2011年のスペース・シャトルの引退以来となり、米国の有人宇宙飛行への復帰を示すものとなった。
今回のDemo-2ミッションは、スペースXとNASAとの間の契約に基づく宇宙飛行士の商業輸送ミッションを行うために必要な、最後の大きなマイルストーンであった。
次は実運用ミッションへ、宇宙旅行も
今回のDemo-2が終了したことで、今後スペースXとNASAは、最初の実運用ミッションである「Crew-1」の実施に向け、Demo-2ミッションのデータの検証や、安全性などの確認を行う。
作業が順調に進めば、Crew-1は早ければ今年10月23日にも打ち上げられる予定となっている。
Crew-1には、船長としてマイケル・ホプキンス宇宙飛行士(NASA)、パイロットとしてヴィクター・グローヴァー宇宙飛行士(NASA)、ミッション・スペシャリストとして野口聡一宇宙飛行士(JAXA)とシャノン・ウォーカー宇宙飛行士(NASA)の4人が搭乗する。ミッション期間は約6か月間の予定となっている。
また来春以降には、2回目の運用ミッション「Crew-2」の打ち上げも予定されている。Crew-2には、船長にシェーン・キンブロー宇宙飛行士(NASA)、パイロットにメーガン・マッカーサー宇宙飛行士(NASA)、そしてミッション・スペシャリストに星出彰彦宇宙飛行士(JAXA)、トマ・ペスケ宇宙飛行士(ESA)の4人が選ばれている。
なお、このCrew-2では、今回のDemo-2で使われたカプセルが再使用される予定となっている。また、打ち上げに使うファルコン9ロケットの1段目も、再使用機体が用いられる。NASAは当初、安全性への懸念などを理由に、有人ミッションにおけるロケットと宇宙船の再使用を認めていなかったが、今年6月に契約が更新され、一転して認められることになった。
スペースXは2014年、NASAから6回分の宇宙飛行士輸送ミッションを、計26億ドルで受注しており、Crew-2以降も定期的にISSへの宇宙飛行士の輸送を続けることになる。また将来的には、契約の更新によるミッション延長もありうる。
スペースXはまた、クルー・ドラゴンを民間人の宇宙旅行に使うことも計画しており、今年2月、宇宙旅行会社「スペース・アドヴェンチャーズ」との間で宇宙旅行の実施に向けた契約を締結。最近では、俳優のトム・クルーズ氏が、クルー・ドラゴンでISSへ行き、映画を撮影するという噂も流れている。
参考文献
・NASA Astronauts Safely Back from First Commercial Crew Trip to Station | NASA
・SpaceX - Updates