日本人が苦手とする英語の「L」と「R」の発音を聞き分ける能力が、瞳孔の反応の違いに表れることを発見した、と豊橋技術科学大学の研究グループが発表した。リスニング能力の客観的な評価に活用し得るほか、瞳孔を指標にしてトレーニングすることで、能力を向上できる期待もあるという。
英語学習者の多くはLight(光)とRight(右)、Glass(グラス)とGrass(草)にそれぞれ含まれるLとRのように、日本語にもともと存在しない音を含む聞き分けを苦手とし、上達の高い壁となっている。一方、目に入る光量を調整する瞳孔(黒目)の大きさが脳の働きにより、無意識の認知状態を反映して変わることが知られている。
そこで同大情報・知能工学系の中内茂樹教授(認知情報学)らのグループは、英語の聞き分け能力を瞳孔から推定できるか調べるため、大学生20人に実験を行った。「Light」の発音を繰り返し再生する中に時折、違う単語「Right」を混ぜ、またその逆も行い、瞳孔の反応をカメラで調べた。被験者には音を気にせず聞き流し、注意をそらすため何も映らないモニター画面を見続けるよう指示した。実験に先立ち、被験者に対してLとRを含む似た単語20組、計40語の聞き分けのプレテストを行い、高得点群と低得点群に分けておいた。
その結果、プレテストの高得点群は低得点群に比べ、違う単語を聞いた際に瞳孔が顕著に大きくなることが分かった。被験者は実験後、音の違いが簡単に分かったと一様に話したものの、高得点群は単語を聞いた直後から徐々に瞳孔が大きくなったのに対し、低得点群は反応開始が遅く、あまり大きくならなかった。またプレテストの成績と実験での瞳孔反応の度合いの間には比較的強い相関があり、プレテストが高成績だった人ほど反応が大きかった。
グループは、高得点群では音に加え、より高次の要因である単語の意味まで想起することで、瞳孔が大きくなったと推測している。
瞳孔反応の違いは「S」と「TH」など、ほかの発音にもみられる可能性がある。また英語話者にとっての中国語など、さまざまな外国語の聞き分け能力の指標になる期待があるという。研究をまとめた同大大学院工学研究科博士後期課程1年の金塚(きんづか)裕也さんは「これまではテストの解答を採点することでリスニング能力を評価してきたが、瞳孔反応により客観的に能力を評価できるのでは」と述べている。
瞳孔反応の大きさを指標としてトレーニングすることで、効果的な学習につながる期待もあるという。中内教授は「ゴルフの練習ではボールが飛ぶのが見えるので、スイングの感覚がつかめる。リスニングでも脳で起きていることが瞳孔で確認できると、うまくいった時の感覚がつかめて学習意欲が保てるだろう」とする。
成果は英国の科学誌「サイエンティフィック・リポーツ」に5月15日に公開され、同大が7月3日に発表した。
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