義務教育を受ける児童に1人1台端末を与え、学校に高速大容量の通信ネットワークを整備することで、公正に個別最適化され、 資質・ 能力を育成 できる教育環境を実現するため、文部科学省が推し進めている「GIGA(Global and Innovation Gateway for All)スクール構想」。

当初は23年度中に1人1台端末を配備する計画だったが、新型コロナウイルスの影響で、20年度中の完了を目指すとして、令和2年度補正予算案において総額2,292億円が計上された。

こうした状況の下、教育機関が本当に役立つIT環境を構築するには、どうしたらよいのだろうか。今回、ネットワンシステムズ ビジネス開発本部フィールドマーケティング部第1チームエキスパートの堀切裕史氏とシニアエキスパートの阿部豊彦氏に、GIGAスクール構想をうまく進めるポイントを聞いた。

強みは「ネットワークを実際に動かしてノウハウを持っていること」

ネットワンシステムズ ビジネス開発本部フィールドマーケティング部第1チーム エキスパート 堀切裕史氏

ネットワンシステムズでは「スクールシステム」戦略において、小学校、中学校、高等学校のICT化を推進しており、GIGAスクール構想への取り組みはここに含まれる。

ネットワンシステムズはもともとLANの販売を目的として設立されたこともあり、ネットワーク分野に強い。GIGAスクール構想では、校内通信ネットワークの整備が求められており、同社はここを担当することになる。

堀切氏は「1クラスの人数が35人として、35人が一斉に動画を視聴すると、ネットワークの遅延が発生します。すべての生徒が快適に授業を受けられるようにするには、こうしたことを踏まえてネットワークを構築する必要があります」と話す。

ネットワンシステムズはネットワークアカデミーという教育サービスを提供しているため、IT機器やネットワークが整備された教室を持っている。そこで、ネットワークアカデミーにGIGAスクール構想向けのさまざまなメーカーのIT機器を持ち込んで、テストを行っているそうだ。

「ネットワークのパフォーマンスについて、机上の空論ではなく、実際に動かした上で語ることができるのがわれわれの強みです。どれほど高価な機器を導入しても、正しくチューニングしなくては使い物になりません。そうしたノウハウもわれわれは持っています」と、堀切氏は話す。

入札は急増も、モノは不足している

ネットワンシステムズ ビジネス開発本部フィールドマーケティング部第1チーム シニアエキスパート 阿部豊彦氏

では、実際のGIGAスクール構想の市場はどのような動きをしているのだろうか。阿部氏は「新型コロナウイルスの影響で当初の予定より遅れていましたが、4月頃から入札が始まっており、6月に入って増えてきました」と話す。

中国でロックアウトが行われていた際、PCや自動車の部品が不足していると報じられていたが、GIGAスクール構想市場もその影響を受けているという。

「PC、キャビネットなど、とにかくモノが足りません。4月に入札した分は早めに在庫を押さえましたが、これから入札する分の機器の在庫は厳しい状況です」と、阿部氏は話す。例えば、1人1台端末を配布することを踏まえると、既存の学校の電源ですべての生徒の端末の充電を行うことは現実的ではない。そこで、PCを保管しながら充電できる「PC充電保管庫」が必要になる。阿部氏は「充電保管庫が特に不足しています」と指摘する。

クラウドにWAN、将来の活用を踏まえたネットワーク設計を

前述したように、令和2年度の補正予算として2000億超円が計上されたが、今年度中に納品まで済ませないと予算がおりない。コロナ禍で期限が迫る中、プロジェクトを進めないといけないということで、教育現場はバタバタしていることだろう。

だからといって、「今年度に構築しておしまいとするのではなく、次年度以降も視野に入れて、プロジェクトを進めていただきたいです。1人1台端末の配布はあくまでもファースト・ステップです。その後に、ステップ2、ステップ3があります」と、堀切氏は話す。

堀切氏は、GIGAスクール構想で構築した環境を効果的に使いこなすポイントとして、「クラウド」と「WAN」を挙げた。というのも、GIGAスクール構想の標準仕様書は、適切な通信ネットワークとパブリッククラウドに基づくクラウドコンピューティングを基本としているため、クラウドコンピューティングを利用した動画や音声データのやりとりがスムーズに可能になるよう、通信ネットワークの整備も必ず行う必要があるのだ。

また、現在は学校内に置かれているサーバもデータセンターに移設されることが予測され、さらには、コンピューティングリソースの保管もクラウド環境に移ってくることが考えられる。そうなると、学校と外部を接続するWAN回線が必要になる。

加えて、新型コロナウイルスの影響で、休校中に生徒が自宅で学習できるよう、急ピッチでオンライン学習の環境が整備されたが、効果的な活用まで踏まえた環境ではない自治体も多いだろう。国外ではオンライン学習が当たり前にできる環境が整備されており、今回、日本のオンライン教育の遅れが浮き彫りになった。日本は災害が多い国でもあり、仮に新型コロナウイルスが終息したとしても、全国の学校でオンライン学習がいつでも可能な環境を構築できれば、それに越したことはない。

ネットワンシステムズでは、オンライン学習の実施も踏まえ、インターネットに接続するためのプレイクアウト回線の整備を推奨している。これにより、クラウドサービスを快適に利用することが可能になる。

  • GIGAスクール構想におけるWAN回線を取り巻く要素

  • GIGAスクール構想におけるWAN回線の構成例

既にGIGAスクール構想の入札を済ませてしまった自治体もあるだろうが、学校のIT環境を有効活用するという取り組みは今後止まることはないだろう。GIGAスクール構想の構築フェーズにある自治体・教育機関も、これから入札する自治体・教育機関も、ネットワークという観点から、学校のIT環境をどう活用していくべきか、検討してみてはいかがだろうか。