清水建設のAI活用
「社会におけるAI活用」をテーマに講演した清水建設 専務執行役員 技術研究所長兼技術戦略室長の石川裕氏は、日本IBM 理事 東京基礎研究所所長の福田剛志氏とともに登壇した。
清水建設では、SHIMZ VISION 2030を策定。「安心・安全でレジリエントな社会の実現」、「健康・快適に暮らせるインクルーシブルな社会の実現」、「地球環境に配慮したサステナブルな社会の実現」の3つの観点から取り組み、「スマートイノベーションカンパニー」を目指しているという。
こうした取り組みのなかで、音声ナビゲーションシステムによる歩行者支援について、2010年から、日本IBMとともに研究を開始していることを紹介。2019年には日本橋COREDOに常設し、普及段階に入ったという。
また、日本IBMと共同で立ち上げた次世代移動支援技術開発コンソーシアムでは、AIスーツケースの活用により、視覚障がい者が、実社会において独立移動ができるように支援している取り組みに触れた。
一方で、清水建設の石川氏は、「建設業は、重さがある世界でビジネスを行っており、サイバーやAIなどの重さがない世界とは異なる。また、現場では一品づくりとなっており、他と違うというところに価値がある世界である。また、在宅勤務とは異なり、在宅工事ができないため、デジタル化、自動化が難しく、その点では導入が遅れていた状況にあった」と前置きしながら、「2019年1月に、AI推進センターを設置し、4人の専任者を中心に10数人規模の組織で、AIに関する技術開発だけでなく、業務プロセスのなかにAIを導入する取り組みを開始している。建設現場において自動で動く搬送ロボットや、トンネルを掘るシールドマシンの制御にAIを活用するための精度向上を図っている段階にある」とした。 ここでは、人検知AIカメラシステムの取り組みについても説明した。
これは、重機と人との接触災害を回避するための新たなAIカメラシステムで、重機周辺の危険区域内にいる作業者を迅速に、高精度に検知できるようにし、人と機械が協調した「Safety2.0」の世界が実現できるという。
「姿勢や向きに関わらず、人を的確に検知するとともに、重機の動きに追随できるスピードで検知することで、危険な場合に即座にアラームを出す。今後は、高温度や高湿度、粉塵、逆光といった過酷な現場環境でも対応できるようにし、できるだけ早く時期に、現場に実装していきたい」と述べた。
さらに、アフターコロナに向けたAIの活用についても言及。「新型コロナウイルスの感染拡大により、在宅勤務の壮大な社会実験が行われ、PoCを飛ばして、いきなり実践投入された。これにより、デジタルシフトが起こり、働き方を大きく変わっている」としたほか、「AIが、将棋や囲碁で人に勝った際には、人対AIという意味で捉えられ、AIが人を駆逐するという論調が先行した。だが、新型コロナウイルスのように、人類がこれまで経験したことがないものが出てきたときには、人とAIが共存して、新たな価値を生み出していくことができる。今後は、こうした関係が求められる」と語った。
日本IBM 理事 東京基礎研究所所長の福田剛志氏は、「AIが実社会でますます活用され、それがアフターコロナでさらに加速される。人とAIは対立するものではなく、協調していくものである。データ管理やプライバシーの問題は、IBMの企業理念としても大切にしているものである」などと述べた。