Xilinxがビデオアプライアンス市場に参入

米Xilinxは6月16日(米国時間)、ビデオアプライアンス向けとなる「Video Transcoding Solution」の提供を発表した。これに先立ち、同社のAaron Behman氏(Director of Video Product Marketing, Data Center Group)からこれに関する事前説明が行われたので、その内容をお届けしたい。

まず背景から説明すると、インターネットにおける動画のトラフィックが年々増えているという話はご存じの通り(Photo01)。

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    Photo01:ちなみにこの数字はCOVID-19の影響を抜きにした話であって、今はさらにこれが顕著になっているとする

そうした中、配信側としてはどうやって品質を落とさずにトラフィックを下げるかが大きな課題になっている(Photo02,03)。

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    Photo02:4Mbps→2.8Mbpsまでビットレートを下げるとどれだけコスト削減になるのか、の試算

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    Photo03:昨今ではリアルイベントがオンラインで代替になって(例えばF1とか)おり、恐らくこの流れは今後も大きくは変わらない。つまり、COVID-19の影響が減っても、依然としてトラフィックは高止まりすることになる

ただ実際の利用シーンでは、

  • 少数のコンテンツに、大量の視聴者がぶら下がる(中継・ライブなど)
  • 多数のコンテンツに一定の視聴者がぶら下がる(映画などのオンデマンド再生)

の2つがミックスする形になっており、この両方を満足させる必要がある(Photo04)。

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    Photo04:ここ数か月で言えば、このライブ向けの需要が急速に高まっているのだが、それとは別に従来のTVからAmazon PrimeやNetflixなどへのシフトも進んでおり、こちらも無視できない

こうしたデマンド(Photo05)に向けて、なぜXilinxが改めてアプライアンス向けソリューションを提供し始めるのか、といえば、2020年7月に同社が買収したNGCodecの存在がある。

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    Photo05:Behman氏いわく「これまで(Xilinxベースのアプライアンスでは)手薄だった領域を選んで提供してゆく」という簡単でこうしたマーケット向けのソリューションを提供することになったそうだ

NGCodecはFPGA向けのCodec IPを提供しており、これを利用してOEMがFPGAをベースにしたアプライアンスを構築していた訳だが、ここからもう一歩進めてアプライアンスを簡単に作れるキットまで提供を開始する、というのが今回の発表の主眼となる。

具体的には、高性能向け(Photo04で左側)にAlveo U50を、高チャネル密度向け(Photo05で右側)にAlveo U30を利用したソリューションを発表した形だ(Photo06)。このAlveo U30そのものは、名前だけはこれまでも時々出てきたのだが、発表は今回が初めてとなる(Photo07)。

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    Photo06:左側は、とにかくビットレートを下げるために高効率なエンコードが必要になるため、Alveo U50をぶん回すという形になる

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    Photo07:ボードの詳細はまだ明らかになっていないのだが、内部的にはZynq Ultrascale+をDualで搭載した構成になる、という話がこちらに上がっている。KintexではなくZynq、というのは柔軟性を確保するためだろうか

面倒な環境構築なしでビデオアプライアンスの活用が可能に

U30そのものは汎用製品であるが、今回はメディアトランスコード性能を前面に押し出した形での発表となった。このAlveo U30ないしAlveo U50の上で動くソフトウェアを、Xilinxからはコンテナの形で提供、それをオンプレミスなりクラウドなりでそのまま利用できるので、面倒な環境構築無しで即座に利用できるというのが同社の説明である(Photo08)。

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    Photo08:ビットレート最適化の方は、H.264のVery Slow(Highest Compression)ないしH.265のSlow(High Compression)なのでU50を、高密度の方はFast(Lower Compression)なのでU30で、ということの様だ

ソフトウェアスタックとしてはFFmpegをベースに、これ向けのエンコード/デコードプラグインやFPGA向けAPI/Binaryをまとめて提供する形で、これがコンテナの形での提供になる形だ(スライドの左端にdockerのアイコンがある事からこれが判る)(Photo09)。

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    Photo09:サーバとしてはAMDのEPYCが示されているが、これはPCIe Gen4に対応しているサーバプラットフォームが今のところAMDのEPYC Gen2しかないという事も理由の1つではあろう

またオーディオや広告挿入(Ad Insert)などにも対応しているとする。加えて2020年第3四半期にはWowzaのStreaming Engineも提供される予定としている(Photo10)。

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    Photo10:これがFPGAの有利な点で、今後もまったく異なるCodec IPが提供される可能性は大きいし、それへの入れ替えも容易だろう

トランスコード性能に関する目安はこちら。レイテンシ25ms未満で、U50はFull-HDを2本、U30はUltra-HDを2本、それぞれトランスコード可能としている(Photo11)。

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    Photo11:Alveo U50の方は50~75Wの消費電力なので、U30に比べるとやや消費電力は多めではあるが、それでもGPUに比べればずっと少ない

ちなみに競合製品と比較すると、U50の方は3割少ないビットレートで同等の画質が確保できるとされ、一方U30は同等の画質をより少ない消費電力で実現可能としており(Photo12)、これが差別化要因になるとする。

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    Photo12:「競合製品」と書いた下に"NVIDIA NVENC"とか書いてある時点で競合製品が何か丸わかりな気はするが、それはともかくとして、左のグラフはU50とU200のMix(Photo11の脚注にある様に、4K30PのみU200を利用)だそうだ。理屈から言えばU200も提供できるにも関わらず、今回ラインナップしないのはフルサイズのカードで消費電力も大きいため、1台のシャーシに収容能力できる枚数がが限られるあたりが問題視されたのかもしれない

Photo13・14が実際に競合との構成を比較したもので、同等の処理性能をより少ない消費電力と価格で実現できる、としている。

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    Photo13:HEVCのSlowはGPUでは処理できないので、Xeonをフルにぶん回す必要がある。当然消費電力もでかくなる

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    Phtoo14:HEVCでもFastであれば、NVEncとの競争になるが、それでも価格及び消費電力の両面でXilinxが有利とする

すでにリファレンスハードウェアの提供も開始

さてこのソリューションだが、HPのProLiantに加え、Xilinxのリファレンス機(WistronのTransformer G2E)もすでに提供を開始しており、2020年夏にはHypertecとBOSTONからも提供が予定されているとする。

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    Photo15:Wistronは台湾のODMというかEMSベンダーであり、このTransformer G2EはXilinxが設計(というか仕様策定)を行ったリファレンス機である

さて、説明はこの程度だが、ここまでターンキーソリューションを提供すると、これまでXilinxのFPGAをベースにビデオアプライアンスを提供してきたパートナー企業の製品(例えばAdvantechのVEGA-4000)と思いっきりビジネスが被る気がするのだが、その点について「確かにぶつかる事もあるかもしれない」(Behman氏)としつつ、冒頭のPhoto05のキャプションにあるように、なるべくこれまで手薄だったマーケットを狙う(事で、既存のパートナーのビジネス領域を侵さない様に努力する)としている。この割り切りというか、なりふり構わなさはちょっとこれまでのXilinxに無かった方向性であり、データセンターファーストという同社の現在の基本戦略に対する新しいアプローチなのかもしれない。