神奈川県平塚市と東京大学生産技術研究所は、平塚新港において平塚波力発電所の海域実証試験を開始したと発表した。
日本の周辺海域における洋上風力発電などの海洋再生可能エネルギーのポテンシャルは、陸上のそれを上まわるといわれている。なかでも、波の力を使って発電する波力発電はその有望株の1つとして期待されている。
今回の取り組みについて、オンラインで行われた記者会見の様子をお届けする。
なお、同実証試験は、環境省の「平成30年度CO2排出削減対策強化誘導型技術開発・実証事業」に「反射波を活用した油圧シリンダ鉛直配置式波力発電装置(平塚波力発電所)の海域実証」として採択されたもの。
平塚波力発電所の稼働は「大きな成果」
会見では、まず平塚市長の落合克宏氏による、今回の取り組みの経緯が語られた。
平塚市と東京大学生産技術研究所は平成31年3月から連携協力協定を結んでおり、平塚波力発電所のプロジェクトには平塚市内から多くの企業が参加しているそうだ。たとえば、今回、新しく開発されたゴムラダー(波受板の一部)は平塚市内の横浜ゴムの開発によるものであるという。
落合 市長は、「気候変動に対する具体的な行動として、新産業の創出のきっかけとして、平塚波力発電所の稼働は、大きな成果。これをきっかけに多くの方に海洋再生可能エネルギーについて興味を持ってもらえたら」と語った。
続いては、同プロジェクトを率いる東京大学生産技術研究所の林昌奎 教授による技術面についての説明がなされた。
まず、平塚波力発電所に設置されている発電装置は「反射波を活用した油圧シリンダ鉛直配置式波力発電装置」と呼ばれるものであるという。反射波とは、押し寄せる波が防波堤などにぶつかって跳ね返ってくる波のこと。この反射波を利用することで、発電効率を格段に高められるとのことだ。
平塚波力発電所の特徴
次に、同氏はこの発電装置の特徴である、「油圧シリンダの鉛直配置」「アルミ・ゴム複合ラダー」の2点を説明した。
油圧シリンダの鉛直配置
まず、油圧シリンダは、波のエネルギーを回転運動に変換し、発電機をまわすために使われる。この油圧シリンダを鉛直に配置することで、平行に配置するよりも、波受板の軸にかかる力を1/6程度にまで軽減することできたとのこと。これによって軸の軽量化を実現した。
アルミ・ゴム複合ラダー
続いて、波受板として使われているアルミ・ゴム複合ラダーについて。同発電所で利用されるアルミ・ゴム複合ラダーは、小さな波のエネルギーを効率的に受けるとともに、大きな波のエネルギーを一部逃がすように工夫されているという。
大きな波がきた場合には、ゴムの部分が軟らかくしなるために、エネルギーの一部を逃がす――というわけだ。
実用化・商業化に向けて
林教授によると、この発電装置にはすでに出回っている市販品が部品として多く使われているそうだ。その理由について同氏は、「波力発電において、実証実験は上手くいっても、実用化・商業化にいたるのは非常に難しい。しかし、この装置のように、すでに出回っている市販品を部品として使って装置を設計することで、実用化・商用化がスムーズに進むと考えられる」と語る。
なお同発電所の今後については、現在、1ユニットあたり45kWである発電能力を「1ユニットあたり100kWから200kWにまで引き上げる」とともに、「10年以内の商業化を目指す」とのこと。そして、2050年頃までには、波力発電装置を全国展開し、総発電能力1GW程度を実現したいという。
なお、発電装置自体はすでに稼働しており、想定の発電能力45kWは達成できていないが、エネルギー変換効率50% はすでにクリアしているとのこと。
持続可能な社会を実現するためには再生可能エネルギーの活用が欠かせない。国土を海に囲まれ、周辺海域に莫大な海洋再生可能エネルギーが埋蔵する日本においては、海洋再生可能エネルギーの開発は期待がかかる。
とはいえ、海洋再生可能エネルギーの利用を考えるにあたっては、台風などに対する安全対策も欠かせず、さまざまな工夫が必要となる。実用化・商用化の流れまでを見越した同発電所の今後の動向に期待したい。