宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2月20日、小惑星探査機「はやぶさ2」に関する記者説明会を開催し、実施していたイオンエンジンの運転結果について報告した。同探査機は2019年11月に小惑星リュウグウを離脱、地球に向けて帰還中だ。機体の状態は健全。前半のイオンエンジン運転は予定通りに完了し、復路も順調な運用が続いている。
はやぶさ2は地球への帰還フェーズにおいて、2回のイオンエンジン運転を実施する計画。第1期は、2019年12月3日に開始し、2020年2月20日に完了。総加速量(ΔV)は約100m/sだった。第2期は同5月~9月に行う予定で、こちらの総加速量は約150m/sとなる。
第1期では、まずスラスタA/C/Dの3台で運転を開始。太陽から遠くなり、発電量が落ちてくると、A/Dの2台に減らして運転を続けていた。2月3日まで計画通りの運転を行った後、軌道を精密に測定し、同18日~20日には、スラスタCのみを使ったトリム運転(微修正)を実施し、これで第1期が完了した。
はやぶさ初号機の帰還中には、中和器の劣化によりイオンエンジンが使えなくなり、「クロス運転」という"裏技"で窮地を脱するという場面もあった。それに対し、はやぶさ2ではこれまで大きなトラブルはなく、きわめて順調な航行が続いている。
第1期の運転開始前には、イオンエンジンの状態を確認するための試運転が行われた。リュウグウへの着陸時、予想外の量の砂が舞い上がっており、イオンエンジン内部の汚染が懸念されたものの、問題は無く、スラスタA/C/Dすべての組み合わせにおいて、正常な動作が確認できた。
このときは時間の制約もあり、すぐ必要になるスラスタA/C/Dについてのみ調べたが、連続運転の終了後、残るスラスタBについても試運転を行い、正常に動作することが確認できた。スラスタBは軌道上でまだ11時間程度しか使っておらず、運転は2014年末の打ち上げ直後以来だった。
スラスタBが使われていなかったのは、バックアップ用として温存されていたため。はやぶさ2はこれまで、すべて正常だったため出番が無かったが、今後の第2期は運転時間が長く、帰還のタイミングも決まっているため、遅れが許されない。よりシビアになる第2期に向け、スラスタBも健全であることは朗報だろう。
イオンエンジンシステム(IES)担当の細田聡史氏は、第2期の運転について「難易度は第1期より高い。胃の痛さも全然違う」と表現。スラスタBの状態についてはずっと気になっていたそうで、「心配事が1つクリアできた」と喜んだ。
はやぶさ2は今後、イオンエンジンが4台とも使える万全な体制で、第2期運転に臨む。推進剤であるキセノンは、第1期の運転で3kgを消費し、残量は39kg(約59%)。かなり余裕があり、燃料切れの心配はまったく無い。
はやぶさ初号機は地球帰還時、探査機本体も再突入して燃え尽きたが、はやぶさ2はカプセル分離後、化学エンジンによって軌道を変え、地球を避けることができる。その後の延長ミッションについてもすでに検討が進められており、吉川真ミッションマネージャによれば、「推進剤がどの程度余るか想定し、それでどこまで行けるか確認した」という。
軌道上、辿り着ける小惑星は300個くらいあり、その中から帰還後10年前後で到着できるものに限定すると「数10個」ほどになったという。まだ小惑星に向かうと決まったわけではなく、惑星も候補になるが、今後、「科学的に意義がありそうな天体を絞り込んでいく」(吉川氏)予定だ。