西日本旅客鉄道(以下、JR西日本)は1月25日、新列車「WEST EXPRESS銀河」の報道公開を実施した。車両の概要については発表がなされているし、車内設備についても多くのメディアが報じている。そこで、本稿は切り口を変え、事業の観点から「WEST EXPRESS銀河」に迫ってみたい。

  • 報道公開された「WEST EXPRESS銀河」。手前の先頭車は6号車(東海道本線で京都方面)撮影:井上孝司

    報道公開された「WEST EXPRESS銀河」。手前の先頭車は6号車(東海道本線で京都方面)

かつて、長距離夜行列車の上客は出張族だった

筆者ぐらいの年代だと、国鉄時代の、夜行列車が各方面にたくさん走っていた時代を実際に経験している。それと比べると、JRグループで定期運行している夜行列車が「サンライズ瀬戸・出雲」だけになってしまった現状には、「えらく変わってしまったものだな」という印象が強い。

もちろん、そうなったのには相応の理由がある。そもそも、長距離夜行列車の利点とは「寝ている間に移動できるので、時間を有効活用できる」点にあるが、それは昼行の移動に時間がかかるという前提があってのこと。

しかし現在では、新幹線や高速道路のネットワークが広がり、飛行機も運賃の価格弾力性が増したために、安価な運賃で利用できる機会が少なくない。そして各地の駅前には、廉価ながら快適なビジネスホテルが多数ある。すると、「前日に移動して前泊する」あるいは「当日に移動しても間に合う」という場面が多くなる。

そうなると、過去に夜行列車の上客だったビジネス利用、出張利用が激減するし、それが夜行列車の退潮につながる一因になったといえるのではないか。「もっと安価で快適な選択肢がある」となれば、そちらに利用が流れるのは当然である。利用が少なくなれば、投資してテコ入れするのも難しくなるので、結果として古い車両を使い続けることになる。それでは需要喚起もままならないし、車両が寿命を迎えれば終わりだ。

それどころか、昼行でも長距離列車は少なくなり、在来線は都市近郊輸送と短~中距離の都市間輸送が主体という現状である。かかる状況下で、JR西日本が「WEST EXPRESS銀河」を送り出してきた背景には、どういう考えがあったのか。

リスクを抑えつつ、新規需要の創出を

まず、「WEST EXPRESS銀河」には、利用者があまり目を向けなくなった「在来線での長距離移動」に、もう一度、目を向けてもらう狙いがある。

JR西日本では「WEST EXPRESS銀河」を「新たな長距離列車」と位置付けている(「新たな夜行列車」ではない点に注意)。そして、「幅広い層に鉄道の旅の楽しさを知ってもらい、繰り返し利用してほしい」との考えを示している。

しかし前述した事情からすれば、昼行・夜行を問わず、漫然と長距離列車を設定しても用務客や出張族はターゲットになり得ない。別の需要を掘り起こし、「在来線で長距離移動するのもいいな」と思ってもらわなければならない。

  • 客室端の壁に掲出されている、この「遠くへ行きたい、を叶えてくれる電車」というメッセージが、「WEST EXPRESS銀河」の位置付けを表している 撮影:井上孝二

    客室端の壁に掲出されている、この「遠くへ行きたい、を叶えてくれる電車」というメッセージが、「WEST EXPRESS銀河」の位置付けを表している

そういう観点から見ると、「TWILIGHT EXPRESS瑞風」と「WEST EXPRESS銀河」は、ハイ・ロー・ミックスの関係にあるのだとわかる。どちらも「鉄道旅行の楽しみ」を押し出しているが、「WEST EXPRESS銀河」は、それを手頃な価格にまとめている点が特徴だ。

しかし、安価に抑えるのであれば、過大な投資とリスクを避けて、事業として持続可能な形にしなければならない。では、どうやって?

まず、車両を新造するのではなく、既存の117系を転用することで、初期投資を抑えた。車両需給の関係で種車を捻出する余裕があったし、とうの昔に償却済みである。しかも、117系はまだ京都や岡山に現役車両の配置があるから、検修面での負担はあまり増えない。そして、1編成だけ改造して需要が見込める路線・期間に臨時列車として投入する。これなら投資は抑えられる。