インド宇宙省(Department of Space)は2019年12月4日、インド初の有人宇宙飛行ミッション「ガガンヤーン(Gaganyaan)」の実施時期について、2021年12月を目標とすると発表した。
すでに宇宙船の設計は終わり、現在は試験や飛行に向けた調達や、宇宙飛行士の訓練、打ち上げに使う「GSLV Mk III」ロケットを有人飛行に使うための改修などが進んでいるという。
「ガガンヤーン」に込められた意味とは
ガガンヤーンはインドが進める有人宇宙飛行計画で、実現すれば、ソ連(ロシア)、米国、中国に続き、有人宇宙飛行に成功した国としては4か国目となる。
ガガンヤーン(Gaganyaan)という名前は、サンスクリット語で「空」を意味する「ガガン」と、「乗り物」を意味する「ヤーン」をつなげた造語で、「空の乗り物」といった意味をもつ。この名前は有人宇宙計画の計画名であると同時に、宇宙船の名前でもある。
宇宙船は最大3人乗りで、高度300~400kmの地球低軌道に、最大7日間にわたって滞在できるとされる。機体は宇宙飛行士が乗るクルー・モジュールと、太陽電池やバッテリー、スラスターなどが収められたサービス・モジュールの2つに分かれており、これらを総称してオービタル・モジュールと呼ばれている。直径は3.5m、全長は6.8mで、質量は約7.8t。
開発・製造は、航空宇宙メーカーのヒンドスタン航空機(HAL)が手掛けている。また、生命維持システムや熱制御システムなどは、インドでも開発を進めているものの、ロシアから輸入する可能性もあるという。
クルー・モジュールについては、2014年12月に試験機「CARE (Crew Module Atmospheric Re-entry Experiment)」が、弾道飛行ながら大気圏に再突入する試験を実施した。
また2018年7月には、発射台で宇宙船を載せたロケットに問題が起きたという想定で、緊急脱出システムを使い、宇宙船と搭乗している宇宙飛行士を安全に脱出させるための試験「パッド・アボート・テスト(Pad Abort Test)」も実施している。
今回の発表によると、すでに宇宙船の主要なサブシステムの設計は終わり、現在は試験や飛行を実施するための部品などの調達が進んでいるという。また、ロシアにおいて、宇宙船に搭乗する宇宙飛行士の選抜や訓練プログラムも進んでいるとしている。さらに、打ち上げに使う「GSLV Mk III」ロケットを有人飛行に使うための改修も順調だという。
GSLV Mk IIIはインド最新鋭の大型ロケットで、2014年に1段目とブースターのみの機体によるサブオービタル飛行試験を経て、2017年に初の衛星打ち上げを実施。現在までに3回の衛星打ち上げを行い、すべて成功している。
ちなみにGLSV Mk IIIは、1段目機体に四酸化二窒素と非対称ジメチルヒドラジンを推進剤とする、「L110」という機体を使っているが、現在それをケロシン・エンジンに変えた性能向上型の開発が進んでいる。ただ有人打ち上げでは、この性能向上型は使わず、L110を改修したものを使用するという。
有人飛行の実施時期は2021年12月を目標とするとされ、また2020年12月と2021年6月には、無人での試験飛行を行うことが予定されている。
インドの有人宇宙飛行計画
「2021年12月に有人飛行を」という目標は、2018年8月にインドのナレンドラ・モディ首相が掲げたものだった。このときモディ首相は「私たちの国は、宇宙において大いなる前進を果たしている。しかし私たちの科学者は次なる夢を持っている。それは、独立75周年となる2022年までにインド人――男女問わず――を宇宙に打ち上げ、私たちの国旗をはためかせることである」と語っている。
この発表以前には、有人宇宙飛行を実施する目標時期について、「2030年ごろ」とされていた。そのため発表当時、インドの現地メディアは、「2022年までというスケジュールを達成することは難しい」、「寝耳に水」といった関係者のコメントを報じている。
また今年6月に、インド宇宙研究機関(ISRO)のシヴァン総裁を議長とする、ガガンヤーンの国家諮問委員会の最初の会合が開かれた際には、「2021年12月までに有人宇宙飛行を実施するというのは、非常に厳しいスケジュール」、「実現のためには、計画をさらに加速させる緊急の必要性がある」といった厳しい意見が出された。
しかし今回、インド宇宙省が2021年12月に有人飛行を実施すると表明したことは、現時点ではモディ首相の目標どおり、計画が順調に進んでいることを示している。
ただ、有人宇宙船の開発は一筋縄ではいかず、なかにはインドが初めて開発する技術も数多くある。またとくに、事故を未然に防ぐなどの安全性の確保は、米国など過去に宇宙船を開発した経験のある国でさえ、いまなお困難を極めている。そのため、打ち上げのまさにその瞬間まで、開発スケジュールがきわめて厳しい状態は続き、場合によっては延期も十分にありうるあろう。
出典
・Department of Space - First Manned Mission
・LVM3 X / CARE - ISRO
・SUCCESSFUL FLIGHT TESTING OF CREW ESCAPE SYSTEM - TECHNOLOGY DEMONSTRATOR - ISRO
・First Meeting of Gaganyaan National Advisory Council - ISRO
・Glavkosmos - Glavkosmos to Help India with Heating and Life Support Systems for Gaganyaan Spacecraft