「実物大の動くガンダム」を目指すという野心的なプロジェクトが「ガンダム GLOBAL CHALLENGE」(GGC)である。ガンダムの実物大というと、高さは18mにもなる。果たしてそんな巨大なモノを動かせるのか。「動く」と言っても、一体どんな動きになるのか。多くの人が気になるのはその点だろう。
これまで、同プロジェクトについてはあまり詳細な情報が出てこなかったが、9月5日、第37回日本ロボット学会学術講演会(RSJ2019)にて、関係者が出席する特別トークセッションが開催された。
この日、ゲストとして招かれたのは、プロデューサーの志田香織氏(サンライズ)、テクニカルディレクターの石井啓範氏、リーダーの橋本周司氏(早稲田大学名誉教授)の3名。残念ながら、技術的な点についてはあまり明かされなかったものの、GGCプロジェクトの狙いは見えてきた。
本レポートでは、そこで語られた内容についてお伝えしたい。
モノ作りの前にまずは人探しから
覚えている人も多いだろうが、「実物大」のガンダムなら、すでに10年前に実現している。このときは、ガンダムの30周年として、東京・お台場に設置。2009年7月からの52日間で、約415万人もの来場者数を記録したという。今回のプロジェクトは、それをさらに「動かす」、というものである。
志田氏によれば、プロジェクトの発端は2014年。サンライズの宮河恭夫社長(当時)が発した「あの立像を動かした方がいいんじゃない?」の一言だったという。当時の実物大ガンダムも首だけは動いたのだが、様々な人から「首の動きだけでみんなが驚いた。どこか動かしたらもっと人が来るよ」と言われ、計画がスタートした。
ただ「動かす」ことは決まったものの、では具体的に何をやるのか。手探り状態のまま、まずは世界中からアイデアを募ることから始めることになった。
しかし志田氏はその後、産休で現場から離れることに。1年半後に職場に復帰すると、宮河社長から再びGGCを任されたものの、「どこに建てるかとか、どの企業と組むかとか、全く煮詰まっていなくてこれはまずい」と危機感を持ったそうだ。
「相談相手が欲しい」――そう思った志田氏が始めたのは優秀な人材探し。求める人物像のキーワードは、「GET」の3文字だ。ガンダムに関する知識があって世界観を理解していること(G)、エンタメ造詣への理解があって柔軟に対応できること(E)、ロボット技術・重機技術の知識があること(T)、というものだった。
そんな都合の良い人材が簡単に見つかるはずがない――とも思えるが、案外都合良く見つかった。それが、この後で登壇するテクニカルディレクターの石井氏。日立建機で双腕重機「ASTACO」等の開発に関わっていた石井氏は、まさに適任だった。
だがプロデューサーとして、志田氏を悩ませたのは「目的」「方法」「動き」をどうするか、ということだった。
GGCでは何を目指すのか。ガンダムの本来の用途は戦闘ロボットであるが、GGCで狙うのはもちろんそれではない。かといって革命的な巨大ロボットを実現する、と意気込んだところで、現在の技術レベルでは、とても原作と同じような動きができるはずもなく、ギャップの大きさに失笑を買うだけだろう。
最終的に辿り着いたのは、「我々はバンダイナムコグループの一員として、どう感動してもらえるか、夢を持ってもらえるかを第一に考えている」という原点。「ロボット開発に本格的に乗り出す、ということではない。こうやったら面白いとか、みんなに思ってもらえるエンターテイメントにするべきだろう」と、割り切ることができた。
目的が決まれば、開発の方向性も自然と見えてくる。「技術」を大々的にアピールするものではないので、新しい技術を頑張って開発して搭載する必要はない。既存技術であっても、新しい組み合わせを見せられれば、「こういう使い方もあるんだね」と、面白がってもらえるだろう。
そして肝心の「動き」であるが、志田氏は当初、既存の技術でやれることから考えようとしていたという。しかし、技術を持つ企業に行って「何ができるのか?」と聞いても、いつも逆に「何がしたいのか?」と聞き返されるばかり。エンジニアは、目的を実現するために最適な技術を考えるのが仕事だ。いきなり技術だけ聞かれても困るだろう。
ここで志田氏は、「何がしたいのかということを、エンタメ会社から提示しなければならない」ということに気付いたという。ガンダムを動かすのであれば、まずガンダムらしい動きとは何か、ということから考えなければならない。ガンダムの特徴は何か……辿り着いた答えは、残念ながら「現時点では秘密」ということだ。