極めてゆっくり断層がずれて起きる「スロー地震」の多発域が、東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)のさらなる拡大を阻止した―。このような分析結果が、京都大学などの共同研究グループが作成した「スロー地震分布図」により明らかになった。スロー地震多発域が巨大地震の破壊に対するバリアとして働く可能性があるという。研究成果は8月下旬に米科学誌「サイエンス電子版」に掲載されている。

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    日本海溝海底地震津波観測網(S-net)(左)と日本海溝のスロー地震分布を単純化した図(右)(京都大学、防災科研などの研究グループ提供。東北地方太平洋沖地震で断層が大きくすべった領域はlinuma et al(2012)に基づく。)

研究グループは京都大学防災研究所の西川友章さん(日本学術振興会特別研究員)や防災科学技術研究所(防災科研)の松澤孝紀主任研究員、京都大学防災研究所の太田和晃特任助教、東北大学大学院理学研究科の内田直希准教授、京都大学防災研究所の西村卓也准教授、東京大学大学院理学系研究科の井出哲教授らにより構成された。

スロー地震は通常の地震と比べ極めてゆっくりと断層が滑る現象で「スロースリップ」「ゆっくりすべり」などとも呼ばれる。海溝型巨大地震発生域のすぐ近くで頻繁に観測されている。このためスロー地震と巨大地震の関連性に関する研究が進んでおり、その成果に期待が寄せられている。

西南日本に位置する南海トラフでは詳細なスロー地震分布が明らかになっているが、東北地方太平洋沖地震が発生した日本海溝の詳しいスロー地震分布は明らかになっていなかった。

研究グループは、「日本海溝海底地震津波観測網(S-net)」をはじめとする、さまざまな地震観測データを利用。日本海溝全域で1991年から2018年までに起きたスロー地震の詳細な分布図を作成し、東北地方太平洋沖地震を起こした断層のずれなどとの関連を詳しく解析した。

この解析過程で日本海溝を南北に3つの地域(北部、中部、 南部セグメント)に分割してみると、北部(岩手県沖)と南部(茨城県沖)の各セグメントにはスロー地震の多発域がある一方、断層のずれが特に大きかった宮城県沖の中部セグメントではスロー地震の活動は低調であったことが判明。東北地方太平洋沖地震の原因になった断層の大きな破壊は、北部、南部セグメントのスロー地震多発域で停止していたことが明らかになったという。

日本海溝では2016年から防災科研のS-netが運用を開始し、18年からデータが公開されるなど、日本海溝のスロー地震活動の観測体制が整いつつあった。

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