宇宙航空研究開発機構(JAXA)とリコーは8月28日、宇宙空間で利用できる小型の全天球カメラを共同で開発したことを発表した。リコーの製品「Theta S」をベースにしており、360°の動画・静止画の撮影が可能。9月11日の宇宙ステーション補給機「こうのとり」8号機で打ち上げ、「きぼう」日本実験棟の船外実験プラットフォームに設置する予定だ。

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    開発した宇宙用Thetaのエンジニアリングモデル

この全天球カメラの本来の目的は、小型衛星光通信実験装置「SOLISS」の2軸ジンバル部の動作を撮影して確認すること。そのためSOLISSの真横に設置されており、一緒にこうのとり8号機で運ばれる予定だ。

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    実際のフライト品。隣にあるのが小型衛星光通信実験装置「SOLISS」

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    宇宙用Thetaは、船外実験プラットフォームのこの場所に設置される

同日、都内で開催された記者発表会には、JAXAとリコーの関係者が出席、開発の経緯などについて説明した。

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    左から、JAXA宇宙探査イノベーションハブの川崎一義・副ハブ長と澤田弘崇・主任研究員、リコーの山下良則・代表取締役社長と大谷渉・SV事業本部長

JAXA側で開発を担当した澤田弘崇氏(宇宙探査イノベーションハブ主任研究員)は、小惑星探査機「はやぶさ2」において、「DCAM3」や「CAM-H」などの小型カメラを担当していた。もともと、「はやぶさ2にThetaを搭載できれば面白い画像が撮れる」と思っていたそうで、はやぶさ2の打ち上げ後に、リコーに「押しかけた」そうだ。

ただ、そのとき会った担当者の反応は「渋い顔」だったという。同社は宇宙は未経験。「宇宙なんて無理」と断っても仕方ない。しかし断る寸前、社員から話を聞いた同社執行役員 SV事業本部長の大谷渉氏が「やってみよう」と背中を押したことで、協力がスタート、2018年、相互連携に関する覚書の締結に至った。

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    会場には歴代Thetaの展示も。ベースになったのは2015年の「S」だ

合意はしたものの、気になるのは「本当に宇宙で使えるのか?」ということ。まず最初に実施したのは、市販のThetaを使った放射線の試験。結果は「思ったより丈夫だった」(澤田氏)とのことで、半年~1年くらいは耐えられるだろうとの見通しが得られた。

厳しい温度変化や打ち上げ時の振動などの問題に対応するため、ケースはアルミ合金製に変更されたものの、内部の基板はほぼ民生品のままだという。ただ、メモリについては、8GBから32GBに増量したほか、放射線耐性の高いチップに交換されている。そのほかファームウェアも大幅に改修した。

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    筆者の「Theta V」と比較。外装は違うものの、確かにThetaだ

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    全天球カメラなので、もちろん裏側にもレンズが搭載されている

この宇宙用Thetaの主目的はジンバルの動作確認であるものの、「全天球なので地球も太陽も全部映る。感動する映像が撮れるのではと期待している」と澤田氏。撮影した画像はJAXAデジタルアーカイブスで公開する予定とのことで、VRゴーグルを利用すれば、まるで宇宙にいるかのような迫力のある画像が楽しめるだろう。

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    会場では、VRゴーグル「Oculus Go」を使ったコンテンツのデモも

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    ジンバル撮影用と言いつつ、カメラの向きは、地球を撮る気満々である

Thetaの画像イメージ。このような画像が宇宙でも撮影できるはずだ

またJAXAは、全天球カメラを宇宙探査や人工衛星等で活用することも検討しているという。JAXAの川崎一義氏(宇宙探査イノベーションハブ副ハブ長)は、「カメラは宇宙で非常に重要。人工衛星が壊れたとき、それを直接確認する手段は無かったが、もし小型の全天球カメラを搭載しておけば、故障場所を見ることができる。宇宙ステーションでも、隕石が当たった場所の確認などに使えるのでは」と期待を述べた。

リコーの山下良則社長は、「Thetaは空間記録装置。新たな産業社会のインフラとなる可能性を秘めており、今回のプロジェクトはまさにその可能性を宇宙まで広げるもの」とコメント。「今回きぼうに乗るThetaに、リコーグループ社員全員の希望を託したい」と、ダジャレで記者発表会を締めた。