先進諸国を中心に医療費の抑制が叫ばれる一方で、医療業界は急速なデジタライゼーションが進行している。また、医療機器の市場は中国の躍進を背景にアジア太平洋地域が米国に次ぐ市場に成長。高品質、信頼性が求められることから日本の医療機器メーカーにとっても巨大な市場として映っているという。そんな医療機器のデジタル化の波を影で支えるのがシーメンスPLMソフトウェアだ。
近年の医療機器業界のトレンドは、4P(Preventive:予防、Predictive:予測、Personalized:個人、Precision medicine:精密医療)といわれており、その実現に向けたロボット技術、ゲノム、AI(人工知能)による健康管理といった技術の開発が進められている。また、その先には、人体の情報そのものをデジタル化しデジタルツイン的に、個人に応じた臓器や骨などを3Dプリンタで作り出すといったことの実現も期待されている。そうした先端医療をグローバルで展開していくためにもデジタル化は有効になるとシーメンスPLMのデジタル革新部長(医療技術),アジア太平洋地域担当のヴァージニア・チャン氏は語る。
しかし、その一方で、そうした治療を受けるための医療コストは増大し、国家財政を圧迫、各国が医療費の抑制を進める動きを見せており、Value Based Pricing(VBP)と呼ばれる有効かつ革新的で、必要性の高い新薬には高い薬価をつけようという試みもあり、規制当局が製薬メーカーにどのように価格を決定したのか、といったデジタルデータの提出を求めるといった動きも出てきたという。
そうした状況の中、製薬/創薬メーカーもそうだが、医療機器メーカーを悩ませるのが、遵守すべき規制が非常に複雑かつ多岐にわたるということ。しかも、それが国別に異なっており、それぞれに対応していく必要性が悩みに拍車をかけることとなっている。とはいえ、規制当局も以前のように何千ページという紙を出力して、ということではなく、デジタルデータによるエビデンスを重視する動きも出てきており、例えば米国FDA(米国食品医薬品局)では2011年よりCase For Qualityという取り組みを開始している。医療機器の設計と製造のデジタル化で品質向上やデータの透明性の向上などを目指したプログラムであり、他国もこうした動きに追随する姿勢を見せている。
シーメンスPLMの提供するソリューションもこうした規制の動きに対応したものとなっており、基準を満たしていると認められた同社のツールを使うことで、医療機器メーカーは本来受けるべき監査手順の緩和といったメリットなどを享受できるようになるという。「各国の規制強化に伴い、医療機器メーカーはデジタル化を進めなければ、そうした規制に対応できない状況になってきている。我々は長年にわたってデジタル、ならびに医療機器の双方に携わってきた経験から、さまざまなノウハウを有している」とのことで、世界の医療機器メーカー大手40社中39社が何らかの同社のツールを活用する状況にあるという。
シーメンスPLMが医療機器分野に対して考えていることは、企画段階から機器が市場に出て、実際に現場で使われるまでの各ステップにかかる時間をどうすれば短くなるか、ということだとシーメンスPLMの医療機器・製薬業界担当業界戦略ディレクターのジェームズ・B・トンプソン氏は説明する。
「この実現のための重要なコンセプトの1つがDigital Thread(デジタルスレッド)の考え方だ。製品のライフサイクル全体にわたって流れるデータをつなぎ、それを進化させていく。我々は、それを実現するためのソリューションとして4つのプラットフォームを展開している」(トンプソン氏)とする。
この4つのプラットフォームというのは、アプリケーションライフサイクル管理ソリューション「Polarion」、PLM「Teamcenter」、100%ペーパレス化を実現する医療機器向け製造実行ソリューション(MES)「Camstar」、そしてIoTプラットフォーム「Mindsphere」で、Polarion、Teamcenter、Camstarは各プロセスでの活用が進んでいるが、Mindsphereについては、まだ医療分野でのIoTがそれほど浸透していないということもあり、現時点では1~2社しか活用しておらず、将来的な機器連携やデジタルツインの深化に向けた技術という位置づけのようだ。
これらのソリューションは、必ずしもすべてセットで使用する必要性はないという。「我々の戦略はオープンであるということ。だからユーザーが別の企業のツールと組み合わせて使ってもらうことに何も問題はない」(同)とする一方で、「医療の世界は規制上のコンプライアンスが複雑である。我々のソリューションは、事前にそうしたコンプライアンスを遵守していることが特徴であり、規制に変更があった際にも柔軟にそれに対応することができている。そうしたソリューションを使うことは、高い品質を実現するうえでの安心感を提供できると思っているし、査察が入った際に、コンプライアンス違反と指摘されることの回避にもつながると考えている」と自社のソリューションに絶対の自信をのぞかせる。
また、同氏は「日本の医療機器メーカーを含め、業界全体でデジタル化の速度は、IT業界などと比べれば遅い。リスクに対して慎重とも言えるし、医療技術の進展そのものが最優先事項であるため、こうした周辺の技術までリソースを割くことができない、という事情もあるだろう。そうした意味では、我々シーメンスPLMが、手助けできる余地があると言える。日本の医療機器メーカーにとっても、もっとも最適なパートナーになれると思っている」と、医療機器メーカーが必要としつつも不足しているところを補うのが自分たちであることを強調。今後のデジタルイノベーションの実現に向けて、継続して安全かつコスト効率を高めるソリューションを医療の現場に届ける取り組みを行っていきたいとしていた。