米Red Hatは5月7日から9日にかけて年次イベント「Red Hat Summit 2019」を開催した。これに合わせ、同社の主力製品「Red Hat Enterprise Linux」「Red Hat OpenStack Platform」「Red Hat Ansible Automation」のキーパーソンにインタビューしたので、講演では得られなかった情報をお伝えしたい。
OSのあり方を変えるゲームチャンジャー「RHEL8」
RHEL Business UnitでVice PresidentおよびGeneral Managerを務めるStefanie Chiras氏は、Red Hat Enterprise Linux 8について「これまでの価値を再定義する必要があった」と語り、この時代に顧客が求めるもの、今後顧客が利用することになる機能をまとめあげたものが「Red Hat Enterprise Linux 8」だと説明した。
Chiras氏は「Red Hat Enterprise Linux 8がゲームチャンジャーになるだろう」と述べた上で、そこで有効な機能として「Red Hat Enterprise Linux 8 Image Builder」を挙げた。これは、ユーザーが自由にカスタマイズしたRed Hat Enterprise Linuxシステムイメージを作成およびアップロードできるというものだ。
Red Hatは、この機能を使って多くのユーザーがカスタマイズしたイメージを公開することを期待している。デフォルトのRed Hat Enterprise Linux 8をインストールするという時代から、用途に応じたカスタマイズ済みRed Hat Enterprise Linux 8のイメージをダウンロードしてきて利用するというのが、今後のスタイルになることを想定しているようだ。それがゆえの「ゲームチャンジャー」なのだろう。
細かなところではファイアウォールのバックエンドがiptabesからnftablesに変わったことや、eBPF (extended Berkeley Packet Filtering)が実験的にだが導入された点なども気になる。これに関しては、Red HatのRHEL Business UnitでPrincipal Technical Marketing Managerを務めるMatthew Micene氏が理由を教えてくれた。
まず、nftablesへの変更はルール作成と管理の改善を実現するためだという。IPv4、IPv6、arp、ブリッジを単一のフレームワームで統合的に管理できるようにするとともに、ほかのツールがファイアウォール機能をより簡単に利用できるようにするためとされている。また、パフォーマンスの観点からも優位性があると説明していた。
eBPFはカーネルおよびユーザランドに新しいシステム検査の機能を提供することになるもので、用途などは、今後ユーザーからのフィードバックを得ながら固まっていくだろうと説明していた。特定の目的があってeBPFを導入するというよりも、ユーザーの選択肢を広げるという意味でeBPFを導入するという意味合いが強いようだ。
楽天が大規模採用した「Red Hat OpenStack」
Red Hat Summit 2019では、事業戦略を支える3つの主要技術のうち、OpenShiftに焦点が当てられることが多く、OpenStackに関しては言及が少なかったように感じた。
この点について、Red HatのCloud Platforms Business UnitでVice President Of Productsを務めるJoe Fernandes氏に尋ねると、2019年4月29日(米国時間)から5月1日までデンバーで開催されていた「Open Infrastructure Summit」と日程が近かったことが理由の1つだと説明していた。
OpenStackに関しては、Open Infrastructure Summitで多くの発表が行われている。Open Infrastructure Summitの参加者の多くがRed Hat Summit 2019にも参加していることなどを踏まえて発表内容が調整されていることから、OpenStackの露出が少ないと感じたのかもしれないとのことだった。
Red Hat OpenStackの最新版は2019年1月11日(米国時間)に発表された「Red Hat OpenStack 14」だ。Fernandes氏によると、次のバージョンとなるRed Hat OpenStack 15のリリースは今年9月を目処に、さらに次のバージョンとなるRed Hat OpenStack 16は2019年末か2020年頭ごろのリリースを予定しているという。
Fernandes氏によると、Red Hat OpenStack 16で注目すべきはやはりエッジコンピューティングだという。IoTや5Gなどの関りからもエッジコンピューティングは注目を集めている。Red Hat OpenStack 16は長期サポートバージョンになることもあり、エッジの長期にわたる活用を期待できる。
OpenStackはITに詳しくない人に説明をするのが難しい技術の1つだが、Fernandes氏は「ユーザーの導入事例がOpenStackを理解する近道」と語る。その例として、楽天がOpenStackの大規模採用を発表したことに触れ、こうした事例からOpenStackについて理解を深めることができると説明していた。
Red Hat内部で毎日使われる「Ansible」
Red Hatは2015年10月16日(米国時間)、米Ansibleの買収を発表した。Ansibleは構成管理ツール「Ansible」を開発していた。現在、Ansibleの開発はRed Hatが支援する形になっている。当時、Red HatでVice Presidentを務めていたJoe Fitzgerald氏に、買収の理由やAnsibleの優位性などについて尋ねる機会を得た。既に公開されている以上の情報は出てこなかったが、いくつか興味深い話もあったので紹介したい。
Red HatがAnsibleを買収した理由の1つに、もともとAnsibleを開発していた人物がRed Hatと近い位置にいたことがあるようだ。Ansibleは競合するプロダクトと比べると後発だがよく整理されており、Red Hatが買収しても何ら不思議はない。複雑化するシステムのモニタリングや管理を効率的に行うため、Ansibleを手に入れることはRed Hatの戦略に適っている。
また、AnsibleとChef、Puppetの違いや優位性について尋ねたが、エージェントレスであることやPythonがあれば利用できること、YAMLを採用しており学習が容易であることなど、既に語られている以上の情報は出てこなかった。
ちなみに、Red Hat内部ではChefとPuppetを使っているそうだが、最も興味深かったのは、Red Hat内部ではAnsibleをかなりヘビーに活用しているということだ。Ansibleは欠かすことのできないソリューションになっていることをを開発元であるRed Hatが感じているというのは、Ansibleが運用で活用できるソリューションであることを示す強い根拠となるだろう。
また、Ansibleのモジュール数が2,200万を超えているといった話もあった。開発されているすべてのAnsibleモジュールについて知っているわけではないという前置きはあったものの、だいたい2200万強のモジュールが存在しているという。Ansibleの適用範囲の広さを物語っている。